加速する母親の異常行動「盗撮されるから暗闇入浴」
2015年。母親より3歳若く、当時65歳の父親も、柳井さん(製造業勤務)も妹も、平日は仕事がある。
結婚して家を出た柳井さんも、ほぼ毎日仕事後には母親の様子を見に実家を訪れ、時には閉じこもりっぱなしの母親を外に連れ出した。
あるとき、妹が仕事から帰ると、母親は真っ暗な中、入浴していた。「お母さん、どうして電気つけないの?」と訊ねると、「盗撮されるからだよ!」と答える母親。
「母は、お風呂とトイレは夜でも絶対に電気をつけなくなりました。妹は、『お母さんすごくない? 電気付けないでお風呂とか難しいよね!』と笑っていましたが、私はお風呂が大好きだった母が、暗闇でおびえながら入浴していると思うと、かわいそうで胸が痛みました。楽観的な妹がうらやましかったです」
さらにまた別の日、「来てくれ! お母さんがおかしい!」と父親から電話があった。
「父はめったに私たち娘を頼らない人なので、電話があったということは、かなり限界だったのだと思います」
嫌な予感がしながら実家に到着すると、父親はとてもつらそうに、そして今までの怒りが爆発したかのように叫んだ。
「もうお母さんには何を言ってもダメなんだ! いい加減にしてくれ! こっちまで頭がおかしくなりそうだ!」
すると母親も負けずに怒鳴る。
「どうしてみんなわかってくれないの! 私がこんなに狙われているのに! あんたたちも敵の味方なんだ!」
「お母さん、もう病院行こう?」「あんたまでおかしい者扱いして!」
父親から事情を聞くと、「突然、キッチンにあるステンレスのボウルに、自分の裸が映るとかって言い出して……」と言う。
ここ最近の母親は、水道の蛇口など、自分の姿が映るものを見ると「盗撮されている!」と言ってアルミホイルを巻きつけていた。
柳井さんはこれまで見てきた母親の異常行動を思い出し、涙が溢れてきた。
「お母さん、もう病院行こう?」と柳井さんが声をしぼり出すと、
「あんたまで私のことをおかしい者扱いして! ふざけるな! きっと狙われてるのは私だけじゃない! あんたたちもやられるんだ!」
と拒絶。
「私はこのときようやく、母親のことを誰かに相談しようと思いました。これまでは『恥ずかしい』『相談された方も困るだろう』と思い、できないでいたのです」