「これが私」アフリカ女性のカッコよさに憧れ

しかし、そんな環境にいながらも、日々散策を楽しむでもなく、移住直後の数カ月はひきこもり生活を送っていたという河野さん。何の気なしにたびたび投げかけられる「あなたはここに何をしに来たの?」という問いに答えられずにいたからだという。

ナイロビの布地店 写真=河野リエさん提供

「私には、これがしたいという望みや目的がなく、特に得意なこともない。何もないということを、突きつけられている気がして……。日本にいた頃は、いろんな職業に就いて、与えられた役割は一生懸命こなしてきましたし、問題なく暮らしてきましたが、『河野リエ』単体がケニアでできることは何もない。そんな自分と向き合わなければならないのが本当につらくて……」

悶々としながら過ごしていた河野さんだが、「とにかく少しでも面白いと思えることは全てやってみよう」と少しずつ動き出す。ユーチューバーになろうと、YouTubeに挑戦し、ブロガーになろうとブログを立ち上げてもみたが、もう一つハマれない。夫が手掛ける赤タマネギの卸しの仕事を手伝うという選択肢もあったが、ケニアの公用語である英語がほとんど話せないので役に立てないうえ、事業自体にも興味がもてなかった。

気が付けば、季節は夏になっていた。河野さんは「もっとアフリカのことを知ろう」と、勇気を出して友人と2人で東アフリカを回る旅に出た。

「その旅先で、アフリカ布を身に着けた女性たちを見て、そのカッコよさにハッとしたんです。それまでの私は、周りの目ばかり気にして、無難なモノトーンの服しか着ていませんでした。でも彼女たちは、カラフルで大きな柄の服を着て、『これが私よ』と堂々としている。憧れました。それで、『私もあのアフリカ布を身に着けたら自信が持てるかな』と1枚仕立ててみたんです」

初めて作った服が自信をくれた

アフリカでは、オーダーメードで服を作るのが当たり前で、テーラーも多い。路上にミシンを置いて仕事をするテーラーがいるほどだ。河野さんは布地店で気に入った柄を選び、自分が着てみたいと思ったデザインをオーダー。出来上がった総柄のセットアップを身に着けると、驚くほど背筋がシャンと伸び、顔色もいきいきして見えた。

「初めて自分の『好き』だけで服を選べたことが本当に嬉しくて。前向きになれたし、『これが私なんだ!』という自信が湧いてきたんです」

そこで、ツイッターにアフリカ布で作った洋服の写真をあげたところ、「欲しい!」という反応がいくつも返ってきた。自分が好きだと思えるものに需要があると知った瞬間、「これはビジネスになる、ビジネスにしたい」と思った。

以前の自分のように、「自信が持てないけれど、何か始めたいと思っている人」が、一歩踏み出す後押しになるようなブランドにしたい――。そうして2018年12月に生まれたのが「ラハケニア」だ。コンセプトは「一歩踏み出すきっかけの」と定めた。

「ここまで来れたのは、ケニアへの移住で環境が大きく変わったことはもちろん、何もできない自分に向き合う時間を持てたことが大きいと思います」

写真=河野リエさん提供
河野リエさん(右)。2019年4月ごろナイロビのマサイマーケットで。当時アフリカ布ピアスを製作してくれていたドロシーさんと

(後編へ)

(文=山脇 麻生)
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