五輪スポンサーの「1業種1社」の原則を打ち破り、主要全国紙4紙を横並びでスポンサーに迎える東京五輪組織委の姿勢は、東京五輪への批判を封じる「メディア支配」の一環であることは疑いの余地がない。政権と密接な関係を続けている読売だけでなく、渡辺社長率いる朝日もその仲間に加わったのである。

「3年間で100万部減ペース」朝日新聞の経営悪化

この背景には朝日新聞の経営悪化がある。2009年まで800万部を超えていた新聞発行部数はデジタル化への遅れで年々減少し、渡辺社長が就任した2014年時点で700万部になっていた。その後発行部数は加速度を増して減少し、「3年間で100万部」のペースで激減したのである。

渡辺社長の在任6年半で実に200万部以上を減らし、ついに500万部を割り込んだのだ。そこへコロナ禍が直撃し、朝日新聞社は2021年3月期連結決算で442億円の赤字に転落。渡辺社長は3月末、経営責任を取る形で辞任した。

渡辺社長がこの間、発行部数減少を補うための新たな収益の柱として打ち出したのは、①デジタル事業、②不動産事業、③イベント事業であった。このうちデジタル事業は伸び悩み、不動産とイベントで収益を支える事態が続いた。東京五輪スポンサーに加わる狙いが、国家主導の大イベントである東京五輪に関与し、イベント事業に弾みをつけることにあったのは想像に難くない。

政治学者の中島岳志さんは新聞社が東京五輪スポンサーになった背景について「不動産部門やイベント部門で収益を上げて、新聞を支える構造になっている」と指摘し、「この『弱点』を、権力者が見逃すわけがなく、収益の出る国家イベントにメディアを組み込み、批判が出にくいシステムを作られている」と分析している。

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新聞業界での「横並び」意識

私は経営基盤の悪化に加え、もうひとつ理由があると考える。

新聞業界での「横並び」意識の強さだ。日本新聞協会は、新聞発行部数の激減を受け、消費税の軽減税率の主張をはじめ業界団体・圧力団体としての側面を強めている。政府や東京五輪組織委から全国紙が横並びでスポンサーになることを要請された時、一社だけそれを拒否し、独自の態度をとる覚悟が渡辺社長にあったとは思えない。

渡辺社長は新聞協会会長への就任に意欲を示しているともみられてきた。大赤字の責任をとって社長辞任に追い込まれ、その野望は潰えたようだが、新聞協会会長を目指す以上、新聞業界を挙げて東京五輪を盛り上げようとしている時に、ひとり冷や水を浴びせることは選択肢にさえなかったのではないか。

現場の記者たちが「記者クラブ」で国家権力から横並びに「支配」されているのと同じように、経営者たちは「新聞協会」で横並びに「支配」されているのである。