たとえばアメリカの中東戦略。ジョージ・W・ブッシュはイラクに民主主義を導入するという名目で戦争を仕掛け、イスラム教スンニ派の独裁的指導者であるサダム・フセインを追放し、後に処刑した。ところが、スンニ派のフセインがいなくなった後に民主的選挙を行うと、当然に多数派であるシーア派による政権が発足した。すると、シーア派の盟主であってアメリカと敵対関係にあるイランの影響が強まり、イラクの政情は著しく不安定化したのである。そうしているうちにアメリカはイラクに興味を失って、混乱を残したままイラクから撤退してしまったのだ。
ブッシュの次に大統領に選ばれたバラク・オバマも、アフガニスタンで混乱を発生させた。アメリカの真の敵は9.11の首謀者であるウサマ・ビン・ラディンをかくまう、イスラム原理主義勢力のアルカイダとタリバンの逃避地になっているアフガニスタンだと、米軍のアフガニスタン増派を実行した。しかし、ビン・ラディンが潜伏していたのはアフガニスタンではなくパキスタンだった。アフガニスタンでは、アメリカはNATO同盟国も巻き込み200兆円も使ったにもかかわらず、20年間ほとんど何の成果も上げられず混乱を残したまま、21年9月11日までの完全撤兵が決まった。
エジプトもそうだ。2011年、オバマは中東で市民による非暴力の民主化運動、いわゆる「アラブの春」が始まるとこれを歓迎し、後押しを明言した。しかし、エジプトで30年にわたって独裁を続けていたムバラクが追放され、民主主義に基づいた選挙が行われたものの、その結果政権を握ったのが反米のムスリム同胞団だとわかると態度を一変。裏で糸を引いて自分たちの息がかかった軍人にクーデターを起こさせ、親米の軍事政権を樹立させてしまったのである。民主主義はどこにいった、という批判には耳を貸さなかった。
このように、アメリカという国は、自由、平等、民主という崇高な理念の伝道師のような顔をしてやってきても、それが本当に根づくまで責任をもたないどころか、場合によっては自分たちの都合で、その理念を曲げてしまうことさえ躊躇しないのだ。
50年前に犯したニクソンの歴史的愚行
バイデン政権の要職の顔ぶれを見ると、トランプ政権ほどではないものの明らかに反中色が濃い。バイデン自身はこれまで中国に対してそれほど厳しい姿勢はとってこなかったはずだが、アメリカ人の中国に対するイメージを徹底的におとしめたトランプの後遺症が残っていることを考えると、中国に甘い顔をできないことは理解できなくもない。
だからといって、中国が台頭をしてきてアメリカを脅かそうとしているから気に食わないというのは、そもそも筋が通らずおかしな話だろう。なにしろ、今の中国をつくったのはアメリカ自身だからだ。