【野地】トヨタの社長ってよく現場に行っていて、(第5代社長の)豊田英二さんは、誰よりも工場の配管に詳しかったって(笑)。この辺にはこういうパイプが走ってるとかって、現場の人より詳しかったというぐらいよく行っていた。
今の豊田章男さんもよく現場に行っているんですよ。そして、経営者は見学が終わったあと、帽子を脱いで深々と最敬礼するんですって。「今日はありがとうございました」。そういうことってなかなか知られてないですよね。
【柳井】でも、そういうところが品質、アウトプットに表現されていくんでしょうね、皆さんの気持ちがそこに集約されて。
企画は最初の1行で決まる
【野地】小山さんと何度か仕事しましたね。いろいろ、勉強になりました。
【小山】ああ、そうだ、『企画書は1行』(光文社新書)という本をお書きになったときに、僕、インタビューされましたね。
【野地】あれは小山さんのアイディアなんですよ。
【柳井】そうなんですか。
【小山】そうだ、思い出した、そうですよ。僕、企画書はどうやって書くんですかとインタビューされたときに、企画書はいつも最初のページをめくったときにどれだけのインパクトを与えられるか、相手の魂をわしづかみにするにはどうすればいいかという話をしたんです。
「お厚いのがお好き?」という昔フジテレビの深夜番組でやっていたのを例に挙げました。それは難しい本をやさしく読み解く番組なんですが、企画書の最初の1行は、「君はキルケゴールも読んだことがないのか?」ってひとこと。それを言ったら、野地さんがとたんに「それだ、本にしましょう」と言って、本になった。
【野地】でしたね。今度は「君はトヨタ物語も読んだことがないのか」というキャッチコピーにします。
【小山】勢いで、本のタイトルが決まったという例ですね。それでいろんな方に企画の話を聞きにいったんですよね。
なぜ「在庫を持たない方法」を思いついたのか
【野地】秋元康さんとか。みんな企画の上手な方ばっかりで。勉強になりました。
そういえばトヨタ生産方式を調べていて、わかったことがあります。「ジャスト・イン・タイム」というのがこの方式の根幹なのですが、なぜ、創業者の豊田喜一郎さんだけがジャスト・イン・タイムという知恵に気づいたか。それはトヨタが繊維産業から出発したからだと、張(富士夫・元名誉会長)さんが教えてくれました。