女性が「昇進」しにくい問題

長時間労働の文化は学問の世界でも問題となっている。これを悪化させているのは、典型的な男性の生活パターンにもとづいて設計された昇進制度だ。

キャロライン・クリアド=ペレス(著)神崎朗子(翻訳)『存在しない女たち:男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』(河出書房新社)

欧州の大学に関するEUの報告書によれば、フェローシップ(特別研究員、特別研究員への奨学金、研究奨励制度)における年齢制限は、女性差別に当たると指摘している。

女性の場合はキャリアを中断するケースが多いため、「年齢のわりに、研究者としての実績年数が少ない」傾向が見られるからだ。『子どもは重要か――象牙の塔におけるジェンダーと家族(Do Babies Matter: Gender and Family in the Ivory Tower)』(未邦訳)の共著者で、ユタ大学教授のニコラス・ウォルフィンガーは、『アトランティック』誌の記事において、大学はパートタイムのテニュア・トラックのポジションを提供すべきだと主張した。

主たる保育者でも、パートタイムならばテニュア・トラックに残ったまま仕事を続けられるし(実質的に試用期間は2倍に延びるが)、都合がつくようになったらフルタイムに復帰すればいい。

このような選択肢を設けている大学もあるいっぽうで、その数はまだ非常に少ない。ここにも、ケア労働のためにパートタイム勤務に切り替えたせいで、貧困に陥ってしまう問題が表れている。

働く女性を脱落させないドイツの制度

この問題にみずから取り組んでいる女性たちもいる。ドイツでは、1995年にノーベル生理学・医学賞を受賞した発生生物学者、クリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルトが、博士課程にいる子持ちの女性たちが、男性にくらべていかに不利であるかに気づき、財団を設立した。

こうした女性たちは「熱心な研究者」であり、日中は子どもたちをフルタイムの保育園に預けている。

それでも、長時間労働文化のはびこる環境において、平等な条件で働くにはほど遠い。保育園の閉園時間以降は、また身動きが取れなくなってしまうからだ。

そのあいだも、男性や子どものいない女性の同僚たちは、「読書や研究の時間を捻出している」。こうして子持ちの女性たちは、熱心な研究者であるにもかかわらず、道半ばで脱落してしまう。

ニュスライン=フォルハルトの財団は、このような脱落者をなくそうとしている。受賞者には毎月奨学金が支給され、「家事労働の負担を軽減するためなら、ハウスクリーニングサービス、食洗機や乾燥機などの時短家電や、保育園の閉園後や休園日のためのベビーシッター代など、どのように使ってもよい」。ただし、この奨学金の受給者はドイツの大学の修士課程か博士課程の在籍者でなければならない。

そして重要なことは、アメリカの大学が育児休暇を取得する教員に適用するジェンダー・ニュートラルなテニュア延長制度とは異なり、ドイツのこの奨学金制度は女性限定なのだ。