ドイツ人も建前と本音を使い分ける

——結婚後の家事育児分担はどうなのでしょう。日本でも「平等に負担すべき」とは言われていますが、実際は女性の負担がかなり大きくなっています。

サンドラ・ヘフェリン『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)

【サンドラ】ドイツでも、昔は、家事育児は女性の仕事とされていました。最近は男性もかなり分担するようになりましたが、このコロナ禍による在宅勤務で、また妻の負担が大きくなりつつあるようです。夫は部屋にこもって仕事してばかりで、結局妻がやることになるケースが増えていると。あるドイツのテレビ番組は「コロナ収束後、女性は元の平等負担に戻れるのか」と問題提起していました。

ドイツの男性に「家事育児を妻と平等に負担するつもりがあるか」と聞いたら、きっとYesと答えるでしょう。でも、それは建前であって本音ではないかもしれません。本音と建前は日本特有のものと思われがちですが、実はドイツ人も使うんですよ。

建前上は平等にと言っても、本音では家事育児はしたくないと思っている男性もいると思います。ただ、今のドイツで堂々と「俺はやらない」と言えば、周囲から一斉に非難を浴びることになる。男女平等に関しての社会的圧力は日本よりかなり大きいですからね。

日本にはない「パートナー圧」とは

私自身は、社会の中で女性の地位が高くなることを望んでいるので、男女平等への圧に関してはいいことだと思っています。でも、なくしてほしい圧もあるんですよ。実はドイツを含む欧米社会は「パートナー圧」がかなりキツいんです(笑)。

ドイツには、映画でもレストランでも旅行でも、行くならカップルでという共通認識のようなものがあります。未婚既婚を問わず「人にはパートナーがいるべき」という考え方が、強く定着しているんですね。だから一人では出かけにくいですし、時には「パートナーがいないということは人間的に欠陥があるんじゃないか」と見られることもあります。

女子会やおひとり様など日本では普通の楽しみ方も、ドイツでは変な目で見られることが多いです。私はどちらも大好きなので、そこは日本のほうが断然いいですね。以前、ドイツで一人でレストランに行ったら、「あの人なんで一人で来てるの?」みたいなスタッフや客の視線が痛くて……。日本ではまったく感じたことのない視線でした。

どの社会にも長所短所はあるものです。ドイツでは、特に女性が独り身でいると周りがうるさいので、焦って「だめんず」にひっかかる人も多い。不倫に寛容なのも、パートナーがいない人より不倫している人のほうが、まだ印象がいいからかもしれません。