風俗嬢たちから語られる「男性の苦悩や弱音」

震災直後から2年ほどまでは、家族を亡くした男性や、遺体捜索の悲惨な現場で働いた消防士や、警察官、復興関係者などが、性的なサービスを受けながら、苦しい胸のうちを女性に打ち明けていました。岩手県沿岸部で働く40代のデリヘル嬢によると、30代の消防士だというお客さんは、「バラバラになっていたり、黒焦げになっていたり、むごいご遺体をいっぱい見た。すっかり麻痺してしまって、涙すら出てこない。今回の仕事で人生が変わった」とこぼしていたそうです。

フリーライターの小野一光氏

女性たちは、男性たちの剥き出しの本心を受け止めていた。普通にインタビューをしても絶対に表に出てこないであろう男性たちの言葉を、私は風俗嬢たちから教えてもらいました。ふだん身にまとった鎧を脱ぎ去ったからこそ、男性客は苦悩や弱音を素直に口にできたのかもしれません。

しかし10年が過ぎようとしているいま、そうした客はほとんどいなくなったようです。

©小野一光
2011年3月17日の陸前高田市

——長期間にわたって取材した原動力はなんだったのですか?

小野一光『冷酷』(幻冬舎)

一言で言えば、好奇心です。人が行けない場所や、見られない世界、聞けない言葉を集めて、文章や写真にし、たくさんの人に紹介するのが、私の仕事です。取材を続けるもっとも大きな原動力が、知りたいという気持ち。私にとって、それは災害も国際紛争も性風俗も、そして殺人事件も変わりません。

——小野さんは今年2月、座間9人殺害事件の白石隆浩と獄中面会を重ねた『冷酷』(幻冬舎)を上梓されたばかりです。

白石との面会は11回に上りました。もちろん内容はまったく異なりますが、白石も、震災風俗嬢も私の知らない事実を知っているという点では非常に興味深い存在です。これからも、普通の生活では決して踏み込まない現場に出向き、知られていない事実を掘り起こし続けたいと考えているのです。

(聞き手・構成=山川徹)
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