東日本大震災の被災地で、性風俗で働く女性たちの声を聞き続けたフリーライターがいる。なぜ10年間も被災地に通い続けたのか。取材の記録を『震災風俗嬢』(集英社文庫)としてまとめた小野一光氏は「性風俗の現場でなければ出てこない被災者の本音がある」という——。(後編/全2回)

風俗嬢は社会を映し出す鏡のような存在

前編から続く

——小野さんが「戦場から風俗まで」を取材のテーマに掲げたのは、いつ頃からなのですか?

スポーツ紙で風俗で働く女性たちのインタビューを毎週書いてきました。一昨年に連載が終わるまで20年以上は続けたので、1000人以上に取材したことになりますね。

なぜ、風俗で働こうと思ったのか。どんな経験をしたのか。働き続けるなかで、心境にどんな変化があったのか……。そうした話を聞くうちに、いつしか性風俗で働く女性たちは、私にとって社会を映し出す鏡のような存在になっていました。

たとえば、子どもを育てるために風俗を選んだ若い女性を通して、シングルマザーが置かれた状況を知り、有名大学を卒業した風俗嬢から就職がいかに厳しい時代かを教えてもらいました。妊娠したにもかかわらず風俗店で働く女性には、出産費用もままならないほど夫の稼ぎが少ない、若者の貧困について気づかされました。私は、彼女たちの体験談を聞くことで、社会の移ろいの手触りを感じてきたんです。

同時に、私はこれまでアフガニスタンやイラクなどの戦場にも足を運んできました。戦時下の町にも売春婦がいる。戦争や紛争という非常時にも、日本の日常にも、性を売って生きる女性たちがいた。それは、自然災害でも同じです。いや、非常時だからこそ、経済的に困窮して、風俗の世界に足を踏み入れる女性が増えるのは紛れもない事実です。

震災風俗嬢』(集英社文庫)は台湾で翻訳出版される予定です。非常時に身体を売らざるをえない女性がいるという現実が、国や文化を越えた普遍性を持つ証左なのかもしれません。

一方で、自然災害と風俗を結びつける取材に対して、不謹慎だという反応があるのも、震災と性風俗というギャップに戸惑いを覚える人がいるのも、理解できます。けれども、私は震災風俗嬢の存在を不謹慎の一言で片付けるべきではないと思いました。彼女たちが体験した3・11をきちんと記録しなければ、と。