算数の「割る数」と「割られる数」がわからない

では、読めない原因は何か。新井さんが筆頭に挙げたのは“語彙ごい”だ。

「文中の言葉の95%以上を理解していないとすらすら読めないという研究結果があるように、語彙の不足は読解のネックになります。特に、算数や理科で使う言葉は日常で使う意味とは違う場合もあり、それを理解していないとたった1行の文章でもわからなくなってしまいます」

小学4年生以降に出てくる抽象的な言葉もつまずきの原因になる。

「6年生の社会科の教科書には『内閣のもとには、さまざまな府・省・ちょうなどが置かれ、仕事を分担ぶんたんして進めます』(教育出版『小学社会6』より)という行政のしくみを説明した一文が出てきますが、『もとには』『置く』という言葉が子供には難しい。『足もと』『物を置く』といった普段使う意味とは違う言い回しだからです。算数なら『割る数』と『割られる数』のような言葉遣いも混乱しやすいですし、数や量の比に出てくる『○○を1とみたときに』の『みた』の意味がわかっていないこともよくあります」

さらに、主語・述語や修飾語・被修飾語といった文法がわかっていないということもあるそうだ。

もう一つ、子供たちが読めない理由には“読み方”もある。本を読むのは好きでも汎用的読解力の低い子供は相当数いて、それは読み方の違いによる。

「物語を読むときは大まかにストーリーを理解していく“通読”が主流。言葉の定義を細かく気にしなくても読み通すことができます。ところが、算数や理科の文章でその読み方をすると、途端に読みにくくなってしまう。『より小さい』と『以下』の違いのような言葉の定義をそのつど、区別していく“精読”が必要になるからなんですね」

一流企業に勤める人でも3人に2人は間違える「読解問題」

読めない文章が並んだ教科書に子供が興味を持てないのは、いわば当然。読めないことが勉強嫌いや特定の教科への苦手意識にもつながるというから見過ごせない。

読解力を身につけるには、ウイークポイントを見つけるのが先決だ。これを探れるツールが、新井さんが開発した「リーディングスキルテスト(RST)」である。選択式のテストは、係り受け解析や同義文判定など、読解に必要なスキルを6分野(図表1)にわたり測ることができる。小学生から大人まで、すでに20万人以上が受検している。大人でも正答率が4割を切る問題も数多くあるという。

「つまり、大人も読めていないということ。特に子供も大人も弱いのが数学や理科の定義を正確に読む“具体例同定(理数)”です。偶数の定義を読んで、偶数を選択肢から選ぶ問題の平均正答率は40%未満です。唯一、50%を上回っているのは小学6年生で、一流企業に勤める人でも3人に2人は間違える。数学が苦手という人のほとんどが数学の文章を読むことにつまずいていることがわかります」

汎用的読解力が低い子はノートの書き方を見ていればすぐにわかると新井さんは言う。

「自分の解答が解答例とちょっとでも違うと、消しゴムで消して解答例を書き写す子です。自分の解答と解答例のどこが違うかをわかっていないのでしょう」