「経済合理性」だけでは活動が始まらない

多くの人が社会彫刻家という意識をもって社会の建設と幸福の実現に携わろうとすることで高原社会は本質的な意味でより豊かで、瑞々しく、友愛と労りに満ちたものになっていきます。

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大きく整理すれば、その活動は、本書の第二章の冒頭で示している次の二点になります。

1.社会的課題の解決(ソーシャルイノベーションの実現)
:経済合理性限界曲線の外側にある未解決の問題を解く

2.文化的価値の創出(カルチュラルクリエーションの実践)
:高原社会を「生きるに値する社会」にするモノ・コトを生み出す

普遍的問題についてはあらかた解決してしまった高原社会において、私たちに残された仕事は上記の二つしかありません。そしてこの二つの活動の実践には、どうしてもコンサマトリーな感性の回復が求められます。なぜかというと、上記の二つの活動は「経済的合理性」だけにたよっていたのでは必ずしも駆動されないからです。

「強い衝動」がイノベーションを生み出す

ここから前述した二つのイニシアチブについて考察していきましょう。

まずは一点目の「社会的課題の解決」についてです。

コンサマトリーな思考様式・行動様式が社会に根付くことによってソーシャルイノベーションもまた推進されると思われます。なぜなら、社会的課題を解決するイノベーションは、必ず「その問題を見過ごすことはできない、なんとかしなければならない」という衝動に突き動かされた人によって実現されているからです。

筆者は2013年に上梓した著書『世界でもっともイノベーティブな組織の作り方』を執筆する際、スティーブ・ウォズニアックをはじめとして、世界中でイノベーターとして高く評価されている人物、およそ70人にインタビューを行いました。その際、判明したのは「イノベーションを起こそうとしてイノベーションを起こした人はいない」という、半ば喜劇的な事実でした。

彼らは「イノベーションを起こそう」というモチベーションによって仕事に取り組んだのではなく「この人たちをなんとか助けたい!」「これが実現できたらスゴい!」という衝動に駆られて、その仕事に取り組んだのです。

ここでポイントとなるのは、彼らイノベーターたちが「こうすれば儲かる」という経済合理的な目論見だけによってではなく、「これを放ってはおけない」「これをやらずには生きられない」という強い衝動……、それはしばしばアーティストにも共通して見られるものですが……によって、それらのイノベーションを実現させているということです。