中国が2カ月閉鎖されるとGDPは3.5%減少する

兵庫県立大学の井上寛康と私が日本の国内のサプライチェーンのデータを使って分析した結果、東日本大震災によって生産設備が破壊されたことによる直接的な付加価値生産額の減少は約1000億円でGDPの0.02%でした。

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直接被害は地域的には東北地方および関東の一部に限られていましたが、被災地からの素材や部品の供給が止まり、被災地での需要が急減したことで、その影響はサプライチェーンを通じて全国に広がっていきました。

図表2は、震災当日から60日目までに通常よりも生産を減らした企業を、点で示したものです。最も濃い点は8割以上生産を減らした企業を表しています。これを見ると、震災から20日後の段階で、全国の多くの企業が大幅な減産を強いられていたことがわかります。その影響は、震災後60日経った後でも全国で持続していたのです。

出所=『なぜ「よそ者」とつながることが最強なのか』

震災後のサプライチェーンの途絶によって間接的にもたらされた生産減少の総額は11兆円、GDPの2.3%と直接的な影響の100倍に上りました。

東日本大震災から約10年後、グローバル・サプライチェーン途絶の問題は、コロナで再びクローズアップされることとなりました。ある推計によると、中国が2カ月間経済封鎖されると、その影響は全世界に波及してGDPは3.5%減少するといいます。

「スモールワールド・ネットワーク」は波及効果が大きい

このような波及効果はサプライヤーからの部材の供給が途絶したときに他社への代替が容易であればあるほど、小さくなります。たとえば、供給が途絶した部材をどの企業からも調達できると仮定すれば、波及効果はほとんどゼロに近くなります。

日本のサプライチェーンにおいて、これは深刻な問題です。最終財メーカーとそのサプライヤーが「系列」と呼ばれる長期的な信頼関係で結ばれているからです。最終財メーカーはサプライヤーと特殊な部品を共同開発して安定的に調達するために、あるサプライヤーからの部材の供給が途絶えても、すぐに他のサプライヤーから調達するということがなかなかできません。

その結果、サプライチェーンを通じた波及効果はより深刻になってしまうのです。

また、サプライチェーンが「スモールワールド・ネットワーク」を形成していることも波及効果を拡大します。「スモールワールド」というのは、メンバー同士が直接つながっていなくても、幾人かの知り合いを介して間接的につながっていることが多いネットワークです。

ほとんどの企業には主要なサプライヤーや顧客企業が数社しかありませんが、なかには数千社の企業とつながっている企業もあります。自動車産業では、トヨタ自動車や本田技研、電機電子産業では日立製作所やパナソニックなどがそれにあたり、これらの企業をサプライチェーンのハブと呼びます。

ネットワークにこのようなハブが存在した場合、全員が間接的には近い関係でつながっていることが知られています。実際、日本のサプライチェーンをたどっていけば、ある企業から別の企業まで平均的に約5社目でたどりつけるのです。

このような構造の場合、ある企業からの部材の供給が途絶えると、その影響はすぐにハブ企業、そしてハブ企業の膨大な数のサプライヤーや顧客にも影響が波及します。