ドイツには親が子供に対して“Solange deine Füße unter meinem Tisch sind…”(和訳「貴方の脚が私のテーブルの下にあるうちは……」)という言い回しをよく使いますが、これは「未成年で親と一つ屋根の下に住んでいるうちは親の言うことを聞け」という意味です。

逆にいうと「成人したら結婚も含めて何でも自分で選択し、自分の好きに生きてよい」ということです。

結婚は「家」とするものではない

ドイツには結婚は男女(または「女&女」「男&男」)、つまりは当人同士の問題だという共通認識があります。性別に関係なく結婚後も夫婦が二人とも仕事を持ち働くことが普通です。

仮に配偶者の兄弟がニートであっても、成人した兄弟に金銭的な援助はしません。「働いていない成人の弟」はあくまでも「弟本人の問題」だと見なされますので、「家」が白い目で見られることはありません。

前述の知人男性の元交際相手に関しては、女性の父親が「ニートの弟がいると将来何があるか分からない」と懸念していたとのことです。しかしこの「将来」というのは、実際のところ誰にも分からないのです。ネガティブなことを書くようですが、今は健康に働いていても鬱になったり、病に倒れたりする話はそれこそごまんとあります。

当人同士が互いに好きだという感情を持っているにもかかわらず、そのことよりも「将来問題になるかもしれない家族や親族」に注目してしまうのは、日本ではいまだに「家単位」でものを考え、かつての「家制度」の感覚から抜け出せていないと言わざるを得ません。

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婚前契約書を取り交わすドイツのカップルも

ところでドイツ人は現実的ですので、「好き」という気持ちのみを重視して結婚に挑むことはありません。婚姻と同時に公証人役場で婚前契約書を取り交わし「結婚前に各自築いた資産については共同の資産ではなく個人のものである」など金銭的なことに関する取り決めをするカップルも多いのです。

結婚生活における「お金のこと」、離婚となった場合の「お金のこと」など、とにかく「お金にまつわる不安」は互いに話し合い婚前契約書に盛り込みます。

ただ日本では婚前契約書について拒否感を示す人も多く、筆者の知人のドイツ人男性は「日本人である妻と結婚の際に婚前契約書について話したら、激怒されたため、やはりドイツとは文化が違うのだなと思い、婚前契約書は取り交わさなかった」と語りました。ドイツで婚前契約を結ぶことは特殊なことではなく、むしろ当たり前のことなので、そのあたりの感覚は日本とだいぶ違うのかもしれません。

認知度は低いものの日本にも婚前契約書はあるわけですから、結婚相手の家族や親族について「金銭の不安」があるのなら、結婚に頭ごなしに反対するのではなく、あらかじめ婚前契約書でお金にまつわる詳細な取り決めをするという方法もあるのではないでしょうか。

ちなみに婚前契約書の良いところは「もめてからお金について考える」のではなく「仲の良い段階でお金について現実的に考えられること」です。

「そんな契約をしなければいけないような人は信用できない」——。そんな声が聞こえてきそうですが、婚前契約書が一般的ではない日本にも離婚に至る夫婦はいるわけで、円満な離婚ばかりではないのですから一つの突破口として考えてみる価値はあるのではないでしょうか。