従来の映像演出とは異なる「手法」
「『半沢直樹』は、漫画であり演劇であると思います。もし演者のセリフがなかったとしても、画面に吹き出しをつければ内容が分かりそうな感じがします。単純化して、分かりやすくデフォルメしたことで、ヒットしたのではないでしょうか」と語るのは、フランスの映画学校を卒業し、ヨーロッパの映画・テレビ事情に詳しいテレビプロデューサーの津田環さん。
確かに、歌舞伎役者などの「舞台人」をキャスティングし、「顔芸」とも言われるほどの激しい演技と、それを強調するために「どアップ」サイズの映像を多用したことが『半沢直樹』というドラマを強く印象づけたのは、誰しもが感じるところだろう。津田さんはその手法を「黒澤明や小津安二郎以来、日本の映画・ドラマが目指してきた映像演出とは異なるものであり、あまり王道の映像演出ではない」と分析する。
そしてその「どアップ・顔芸」の演出方針が、功を奏して『半沢直樹』が大評判となっているのが中国・台湾なのだという。
台湾を中心に中華圏でドラマ制作にあたる匿名希望のAさんは最近、台湾人からこんな感想を聞くことが増えた。「日本のドラマはテンポが遅くてつまらないから見ていられない。でも、『半沢直樹』だけは面白い」
そして、それとほぼ同じ声を中国大陸でも聞くことが増えたという。
中華圏にも受け入れられたが……
かつては日本のトレンディードラマが大流行し、「世界で一番日本のドラマがみられている」と言われていた台湾。しかし、韓流ブームにより日本のドラマの人気は低下、韓国のドラマにその座を奪われた。
いまや日本のコンテンツは一部の「日本マニア」の間でその人気を保つのみで、たまにポツンと話題になる程度なのだという。余談だが最近では、多部未華子さん主演のNHKドラマ『これは経費で落ちません!』が台湾のドラマ関係者の間で比較的話題になったそうだ。
ともかくそんな「日本ドラマはテンポが遅い」ということで敬遠されがちな中国大陸や台湾で、『半沢直樹』は例外的に受け入れられているという。そしてその理由をAさんはこう分析する。
「中国や台湾の人は感情表現が豊かというか、はっきりしています。それに比べて日本人は感情表現が分かりにくいと思われがち。しかし『半沢直樹』の激しい『顔芸』とどアップ多用の演出は、中華系の人たちにはとても分かりやすかったのだと思います。これほど『どアップ』を多用する演出は、中華圏にもありませんから」
そしてAさんは、『半沢直樹』の「顔芸・どアップ」が受け入れられたのには、こんな背景もあるのではないかと考えている。