売り上げは3分の1でもキャストの出勤数は減らさない

創業54年の「クラブニュー花」は東京オリンピックの年にオープンした老舗中の老舗。今年は2度目の東京オリンピックが延期になるだけでなく、店にとっても大きなイベントが中止となった。

「私は今年7月に4代目ママに就任する予定だったのですが、コロナの影響で来年まで延期に。銀座のママになってちょうど10年の節目の年でした。本来行われるはずだった就任イベントも、中止せざるをえませんでした」

店にとって十数年に一度という就任イベントは「一日で数千万円が動く」という一大イベントだ。その経済的損失は計り知れない。

「コロナ以降、売り上げは3分の1以下に落ち込みました。このような状況ですから、それは仕方ないと思っています。しかし、それでも来ていただいたお客さまには満足できるサービスを提供したい。そのため、コロナ後も、ホステスの出勤数は減らしていません」

撮影=長谷川智紀
高梨凛ママ

現在も店には常に17〜18人のホステスが出勤している。それに加えて7月以降、PCR検査を実施できるように医師を常駐させている。

「緊急事態宣言が解除されてからも感染は終息していません。国民全体に不安感が募る中でも、銀座で安心して遊んでいただく手段として、医師を常駐させるしかないと思ったんです」

一人2万円の検査代と医師の日給8万円を自己負担

ほかの飲食店同様、店頭にはアルコール消毒液と自動体温計を設置している。さらにオープン前にはPCR検査を実施するため、夜間救急往診サービス「ナイトドクター」の所属医師が店を訪れる。医師の人件費や検査費用はすべて店の負担だ。

ホステスとスタッフは店を開ける前に毎日検査を受ける。採取した検体は店の近くに停めてある車へ運ばれる。車内にはPCR検査機があり、2時間後には結果が出る。また客に対しても希望があれば来店のたびに検査を実施している。

PCR検査の感度は100%ではないので、結果が陰性でも感染しているリスクはある。また、検査から次の検査までのあいだにコロナに感染しているかもしれない。検査結果が出るまでは2時間のタイムラグがあるので、コロナ陽性者の入店を完全に防ぐことはできない。それでも「日本で最高のおもてなしを提供することが銀座の矜持」と、毎日検査する体制を整えている。

「毎日、一人あたり2万円の検査コストがかかります。さらにドクターの日給が8万円。出費は大きいですが、安心して飲んでもらえるお店になるためには、これくらい徹底しなければならないと思います。ナイトドクターさんのご協力でここまでの体制を整えることができました」

撮影=長谷川智紀
リアン株式会社 北條康弘 専務取締役

「ナイトドクター」を運営するリアン株式会社の北條康弘専務取締役は、医師派遣に至った背景を次のように語る。

「われわれはコロナ以前から、病気にかかってから病院に向かうという今の日本社会のあり方に問題意識をもっていました。その点で、ニュー花さんの施策は事前にコロナ患者の入店を止めるという意味でわれわれが標榜している予防医療の重視とも理念が通底しており、ぜひとも協力させてほしいと医師の派遣を決めました」