労働問題に詳しい山田秀雄弁護士も同じような懸念を抱く一人だ。

「これまでも似たケースはしばしばありました。解雇権の濫用は問題となるので、社員が自主的に退社するよう仕向ける配転、異動を企業は行ってきています」

通常、解雇は(1)客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる。(2)就業規則や労働協約に定めた解雇の事由に従っている。(3)労働基準法、その他の法律に定められている解雇禁止事由に該当しない。(4)解雇の予告を30日前にするか、それに代わる解雇予告手当を支払う、の4要件を満たす必要がある。ならば、“やる気を削ぐ”方法が手っ取り早いということなのだろう。

不当な配置転換、異動だと思って裁判を起こしても、勝つことは容易ではないと山田弁護士は語る。

「これまでの判例を見ても、裁判所は次第に企業のほうに軸足を置いてきている。また、勤務している会社を相手に訴訟を起こすのは、針のむしろ。相当な覚悟がないとできることではない」
労働者が培ってきた経験、スキルを活かせる環境づくり、人材配置をすべきにもかかわらず、経済原理ですべてが進んでいく現状に歯がゆさを感じると山田弁護士は言いつつ、配転や異動には従わざるをえないだろうと、ため息交じりだ。

では、労働組合はどのような対応をしているのか。すでに2000人規模の配転計画を発表し、さらに社員の副業も一部容認して周囲を驚かせたのは富士通だが、同社の労組はこう答える。

「雇用を守ることが大前提。ただ、これだけ技術の進歩が著しく、時代の変化も激しいと、企業も変化を求められ、ラインの統廃合などで配転や異動は当然起きる。そのとき、重要なことは事前の教育。特に違った業種、環境に配転させられる際、しっかりとした社員教育が行われるよう経営側とは話をしている」(山形進富士通労組中央執行委員長)