長い目線でみると、中国は韓国の競争上の脅威に

もともと、韓国経済には輸出依存度が高いという特徴がある。韓国はサムスン電子をはじめとする大手財閥企業が海外から技術や資材を確保し、汎用品を大量生産し、低価格で輸出するビジネスモデルが中心だった。特に、半導体などの分野では、こうした手法で世界シェアを高め経済成長を遂げた。

近年の韓国経済を振り返ると、2018年以降、同国の輸出は急激に減少した。その背景には、最大の輸出先である中国が経済成長の限界を迎えたことや、米中貿易摩擦の激化によるサプライチェーンの混乱があった。

一方、昨年後半に入ると世界的な5G通信の普及が支えとなり、韓国最大の企業であるサムスン電子の半導体事業が回復した。それによって、輸出をはじめ韓国の景況感は幾分か持ち直しの兆しを示した。

ところが2020年に入ると、新型コロナウイルスの感染拡大によって、韓国の輸出は再び急減した。個人消費の落ち込みも重なり、1~3月期の実質GDP成長率は前期比でマイナス1.3%だった。コロナショックが韓国経済を直撃し、深刻な景気後退への懸念が高まっている。

4、5月の韓国の輸出は、それぞれ前年同月比で20%超減少した。6月の輸出は同10.9%の減少だった。輸出の減少幅が幾分か穏やかになったことは、中国経済の持ち直しに支えられた。4月半ば以降、中国では感染の拡大が小康状態となり、それまで支出を控えていた人々の購買意欲が戻り始めたからだ(ペントアップ・ディマンド)。

ただし、今後、韓国が中国への輸出によって景気回復を目指すことは難しいだろう。現在、中国は米国がファーウェイへの制裁を強化したことに対応するため、サムスン電子などからの半導体調達を重視している。その一方で、中国は国内の半導体生産能力を強化している。やや長めの目線で考えると、韓国にとって中国は競争上の脅威に変わるだろう。

それに加えて、中国では鉄鋼などの過剰生産能力が深刻だ。それは、韓国の鉄鋼業界にとって逆風になる。米国では経済再開とともに感染者が増加しており、世界的に耐久財や基礎資材への需要は低迷するだろう。

文在寅は「無から有」を生み出せない

輸出が減少し、韓国国内での生産活動は低迷している。その結果、韓国の雇用環境の悪化が鮮明だ。5月、韓国の失業率(季節調整ベース)は4.5%に上昇した。この水準は、2017年5月に文政権が発足してから最悪だ。

同月、製造業では、6万9000件の雇用が喪失した。製造業と非製造業の両分野で希望退職を募る企業も増えている。特に、若年層の失業率の高さは軽視できない。韓国の失業者に占める25~29歳の割合は、OECD(経済協力開発機構)加盟国中で最高だ。若年層を中心に韓国の所得・雇用環境は一段と深刻化しつつある。

外需依存度の高い韓国経済の安定には世界経済の落ち着きが欠かせない。そのために必要なのが、新型コロナウイルスに効果のあるワクチンの開発と供給だ。英アストラゼネカは、9月のワクチン供給を目指している。

ただし、副作用の有無やどの程度の効果があるかなどに関して不確実性が高いとの見方を示す感染症の専門家がいる。先行きの不確定要素が多い中、世界各国は新型コロナウイルスのリスクに対応しつつ経済を運営しなければ、V字回復は見込めない。

韓国銀行(中央銀行)が行ったアンケート調査によると韓国企業の27%が新型コロナウイルスの感染が終息しないのであれば、雇用を削減するとしている。また、企業の37%が本年の新規採用を保留すると回答している。若年層の雇用機会は一段と限定されるだろう。

その中で、文政権は有効な対策を打てていない。5月に文政権は公共部門を中心に156万人(韓国の労働力人口は2800万人程度)の雇用を創出すると宣言した。それに基づいて、文政権は仁川(インチョン)国際空港公社などの非正規雇用を正規雇用に転用し始めた。

その政策は無から有を生み出すものではない。文政権の経済運営は、持つ者から持たざる者へ政府の力によって富を移転させるか、既得権益の強化に終始してしまっている。その発想で若年層の閉塞感を解消し、韓国の社会と経済のダイナミズムを引き上げることは難しいだろう。