昨年のファーウェイ制裁は失敗

去年のファーウェイ制裁は米国企業の製品・技術のファーウェイ向け販売を禁止する措置だった。この1年間、ファーウェイは制裁に対してスマホのコア技術を自社開発で米国製をリプレースし、サバイバルできた。まず自社設計のチップセット麒麟、5Gベースバンドチップ、画像処理、ICP解読チップ、NB-IoTチップ等、次から次へとリリースした。他の部品も米国製のものを中国、日本製のものに置き換えた。スマートフォンのOSについては自社開発の鴻蒙(Harmony OS)も発表し、Googleのアンドロイドをリプレースした上で、ヨーロッパの企業と組んで独自のエコシステムを作りはじめた。

2018年度、ファーウェイは米国から輸入した部品が110億ドル、世界でトップだった。しかし日本経済新聞中文版の記事(※1)によると、2019年12月時点で、5G対応のスマホ「Mate 30 Pro」を分解し、内部の部品構成を調べたところ、金額ベースで米国製部品は1.5%しか残っていなかった。その代わりに日本製部品は全体の40%に近く、4G対応のスマホより倍増した。

写真=iStock.com/Marco_Bonfanti
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トランプ政権は、去年の制裁がファーウェイを抑えきれなかったことに気付いた。そして米国企業を制限した結果、ファーウェイは日本、欧州等の企業とアライアンスを組んで、脱米国のサプライチェーンを構築した。従って今回は、米国商務省は輸出管理規則を変更し、外国企業をターゲットに制限する方向に転換した。

「一石二鳥」の効果を狙った今回の制裁

ファーウェイのスマートフォンを分解して調査した結果で分かるように、日本製の部品を大量に使っている。実は、ファーウェイが2019年度、日本企業からの調達額が過去最高の1兆1000億円に上る見通しだと梁華会長は2019年11月21日に都内で日本メディアとの会見で明かした(※2)。今回のファーウェイへの追加制裁は、ファーウェイへの半導体供給を断ち切ると同時に、日本の半導体ベンダーを抑え、再び昔日の半導体産業をよみがえらせることのないよう、いわゆる「一石二鳥」、同時に二つの目的の達成に照準を合わせている。

もう一つの狙いはファーウェイのチップ開発を止めることだ。前述した何種類のチップはファーウェイの子会社、海思半導体技術(ハイシリコン)が設計したものだ。その設計能力はいまや世界一だ。すでにインテルやクアルコムなどの米国勢を凌駕していると日本の半導体業界の有識者が評価している(※3)

ただし、ハイシリコンが設計したチップを台湾の半導体製造メーカー「TSMC」(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co)に委託している。米国は今回ピンポイントでTSMCにファーウェイへの出荷を制限した。ファーウェイからの受注ができなくなったTSMCに対して、トランプ政府はTSMCに米国に工場を造らせる一手を用意した。半導体工場を米国国内に置き、自国のファブレス(工場を持たない製造会社)半導体ベンダーに製造工程を確保する目的だ。工場を建設する初期投資には米国政府から補助金が出る。

5月15日のファーウェイへの制裁は、もっと奇妙なところがある。外国の企業はファーウェイへの製品供給を制限される一方、米国の半導体ベンダー、インテルやクアルコムはファーウェイへの出荷は許可されている。台湾のMediaTeK、韓国のサムスン電子によるファーウェイへの製品供給も、制限されていない。一応、輸出管理のルールが作られるものの、運用はトランプ政府の意向次第で、制限対象を自由に変えることができるのである。

これは1990年代に日本のスパコンの運命を思い出させる。日本のベンダーが1年間以上の時間と労力を費やしてやっと商談を取れそうなところまで持っていたが、ココム(Coordinating Committee for Multilateral Export Controls; COCOM)の規制によって、当時の通産省が中国への輸出に待ったをかけた。しかし、米国のスパコンメーカー、クレイ社(Cray Computer Corporation)のスパコンはすでに中国の商談相手のマシンルームに納入されていたのだ。今回は日本政府がスパコンの二の舞を踏まないように、うまく回避する方法を見つけられるだろうか。

(※1)https://cn.nikkei.com/china/ccompany/40567-2020-05-15-09-04-57.html
(※2)中国ファーウェイ、2019年の日本調達額が過去最高の1兆円超え。会長「日本企業に感謝」
(※3)ファーウェイ AIチップ「キリン」 米国と対峙可能な「東の横綱」=豊崎禎久