現在会員は17000人で、法事・葬儀・墓の相談のできるコンタクトセンターや救急医が電話対応してくれるメディカルコールが無料で利用できる。会員カードを持参すると寺内のカフェやショップが5%割引の特典を付けた。

会員向けメールマガジンでは寺が主催する各種イベントや講座、築地本願寺で行われるパイプオルガンコンサートなどが案内される。

開かれた寺で、門信徒を増やす

合同墓に申し込んだ人の多くは、おそらく最初は「安くて便利」くらいにしか思っていない。

しかし、銀座に来たついでにカフェに立ち寄る、自分の興味のある講座に赴くといったことをしていくうちに寺との縁の深まりを感じ、自分や親、伴侶の「いざ」というときに一本電話をすればすべてのニーズを築地本願寺が応えてくれる――。

そうした一連の顧客体験の流れが一気通貫した姿こそ、築地本願寺が目指す「ワンストップサービス」である。

合同墓に関しては向こう4年で申込者数3万人、築地本願寺倶楽部は向こう5年で会員数10万人が目標だ。こうした人たちが徐々に門信徒になっていくというプロセスを今、実証していると安永氏は言う。「開かれたお寺」づくりは、そのための手段というわけだ。

数字やデータにはできない「人生の意味付け」

ところで、そもそも銀行、ヘッドハンターを経てエグゼクティブコーチングなどを仕事にしてきた安永氏は、なぜ浄土真宗に惹かれたのだろうか。

「銀行員時代、イギリスのケンブリッジ大学に留学したときにはよく教会に行き、キリスト教の勉強もして司祭と議論もしました。しかし、神との契約が腑に落ちなかった。ところが日本に戻ってきて銀行をやめてから色々と手を出したなかでは、コーチングと仏教の勉強だけが長続きした。自分の感覚に合っていたんでしょうね」(安永氏)

撮影=飯田一史

今も週末にグロービス経営大学院で教授として講座を受け持つ安永氏。1回3時間のクラスでは、最後の5分には数字とロジックの世界から離れ、僧侶として受講者の心に語りかける。

人生には、主観的な物語が必要だ

安永氏は自身の経験から、仏教の言葉は現代に生きる人たちに十分に刺さる、それが普段は理詰めの世界に生きているビジネスパーソンであっても――という手ごたえがある。

「特に大事なことは、自分は何のために働いているのか、何のために生きているのかという問いです。それは数字やデータにはできない、個々人が考えるべき主観的なものです。そこに向き合わないまま老後が見えてきて、『自分の人生はこのままで終わりか』と思うようになると、むなしく感じてくるのです。自分に人生にどんな意味づけをし、現実とどう折り合いを付けるのか。そうした主観的な物語を持つからこそ、人はがんばろうと思えます」(安永氏)