消費者物価指数が低下し続けているのは日本だけ
政府は、この「デフレ宣言」を行うことによって、どんな情報を伝達したかったのだろうか。あるいは、将来の何らかのデフレに対する政策対応を行うことを示唆するという「シグナル」を公衆に送りたかったのであろうか。政府から何らデフレに対する政策対応が示されないまま、その「デフレ宣言」を聞いた公衆は、「so what?(それで、何?)」と政府に尋ね返したくなったことであろう。
ここで留意したいことは、政府が「月例経済報告」で「デフレ」について言及したときに、その定義は「持続的な物価下落」を意味することである。「持続的な物価下落」の中の「物価」は「消費者物価」を意味している。より厳密には、「月例経済報告」の中で消費者物価のうちの「生鮮食品、石油製品およびその他特殊要因を除く総合」(いわゆる「コアコア」)および「生鮮食品を除く総合」(いわゆる「コア」)に言及されているので、政府はこれらの「コアコア」および「コア」の消費者物価に注目しているとわかる。
図2には、主要国のインフレ率と比較するために、アメリカ、ユーロ圏、イギリス、中国とともに日本の消費者物価指数の対前年同月比が図示されている。日本のインフレ率を諸外国のインフレ率と比較すると、日本以外のインフレ率が09年半ばより反転するとともに、09年11月には消費者物価指数変化率がマイナスからプラスに転じている。アメリカにおいては、09年3月より対前年同月比で消費者物価指数変化率がマイナスとなっていたが、09年11月に1.8%のインフレ率となり、消費者物価指数変化率がプラスに転じている。ユーロ圏においては、09年6月より対前年同月比で消費者物価指数変化率がマイナスとなっていたが、09年11月に0.5%のインフレ率となり、消費者物価指数変化率がプラスに転じている。中国においても、09年2月より対前年同月比で消費者物価指数変化率がマイナスとなっていたが、09年11月に0.6%のインフレ率となり、消費者物価指数変化率がプラスに転じている。また、世界金融危機の影響を大きく受けたイギリスにおいては、一貫して消費者物価指数変化率がプラスである。これらに対して、日本のみが消費者物価指数が09年3月より対前年同月比で低下し続けている。 実際のデータを見ると、政府の考える「持続的な」時間の長さを推し量ることができる。2000年1月から09年11月までの消費者物価指数の推移が図1に示されている。07年2月から08年9月にかけて上昇していた消費者物価指数が、リーマン・ブラザーズが経営破綻した08年9月以降、低下傾向にあることがわかる。問題の「月例経済報告」で言及されたのは09年9月における物価下落であることから、08年9月から09年9月までにおける消費者物価指数の低下傾向が問題となった。つまり政府の考える「持続的な」時間の長さは、およそ1年間ということになる。