連夜の「お友達」との会食を指摘され「何かいけないのか」と開き直る
われわれは「当たり前の日常」を失った。その一方で、2月28日の衆院総務委員会では立憲民主党の議員から「会食が相次いでいる」と指摘されると、「何かいけないことなのか」と開き直る。その様子をみると、国民や医療現場の痛みや悲鳴が首相の耳に届いているようには思えないのである。
今回の会見の内容もそんな「ひとごと」のような言葉が並んでいた。
この会見には多くの問題点があった。左右に置いたプロンプターを振り子のように順番に見ながら、一言一句漏らさず読み上げたために、自身の言葉という感じがまったくしなかった。首相の「気持ち」が伝わってこないのだ。
記者会見は約36分間だった。そのうち19分間は安倍首相のスピーチ。質疑応答は残りの17分間だけで、しかも事前に提出されていた5つのメディアに応じるだけだった。安倍首相は国民の疑問には答えず、一方的に説明するだけで、すぐさま私邸へ引き上げた。
いったい何を伝えたいのかがわからない
最大の問題点は「いったい何を伝えたいのかがわからない」ということだ。
経営者や政治家などのスピーチで重要なことは、伝えたい「キーメッセージ」を明確にすることだ。それができていなければ、メッセージを聞き手に刷り込むことができない。
木に例えると、幹(キーメッセージ、結論)があって、枝(根拠、ポイント)があって、最後に葉(具体的事例)がある。この会見では具体性の乏しい無数の葉が、だらだらと羅列されただけだった。
イベントの中止、学校休止、事業者への話、おくやみ、PCR検査、治療体制……。ずらずらと話は続いたが、①問題→②原因→③解決法→④展望→⑤アクション、というロジカルスピーキングの基本にのっとって説明すれば、もっとわかりやすくなったはずだ。
つまり、①②しっかりと現状説明し、現在わかっている原因・背景を簡潔に述べる→③その解決策として、例えば、A:教育現場での対策、B:経済施策、C:医療体制といったようにポイントを分け、順番に話す→④それにより収束するという展望を見せる→⑤そのために、「ですから皆さんぜひ、●●をお願いします」と協力を呼びかける、という格好だ。
しかし安倍首相のスピーチは、このロジカルスピーチの基本がおろそかになっていた。最初に現状説明をしなければいけないのに、それは省かれており、いきなり「躊躇なく対策を講じてきた」と胸を張る。すべてが後手後手に回ったと思っている聞き手の耳には、その先の言葉が入ってこない。