実用書として『孫子の兵法』を読む方法

——孫子』がアイデアの可能性を担保してくれるわけですね。

【長尾】そうです。また仕事の内容だけでなく、各個人がビジネスマンとしての振る舞いを考える時にも『孫子』は役立ちます。ビジネスマンとして成長するということは、社会における自分の価値をどう高めていくかを考えることです。

長尾一洋監修『角川まんが学習シリーズ まんがで名作 孫子の兵法』(KADOKAWA)

そのためには同僚と横並びでやっていても先は見えてこない。新しい挑戦が求められるわけですが、それこそ『孫子』でいうところの「奇を以って勝つ」(予想外の手段こそが勝ちに繋がる)という兵法の実践といえます。常識に囚われていてはやっていけない時代に、自信をもって仕事に取り組むための指針の書ということができます。

——実用書として読むことができるということですか?

【長尾】ただ、そこには注意が必要です。『孫子』はあくまで2500年前に書かれた、戦争の戦い方を記した本です。だからそこに直接答えが書かれているわけではないんです。『孫子』に書かれていることを、読んだ側が応用してはじめて、現代で役に立つものになっていくんです。

だから『孫子』の言葉を丸暗記する必要などはないんです(笑)。だいたいこんなことが書かれていたな、と覚えておいて、ふと迷った時やヒントがほしい時に、ちょっと手に取ってみる。そうやって自分の考え方の“答え合わせ”をするのが、まずは良い使い方ではないかと思います。

どんな形でもとりあえず一度触れてみる

——もっと気軽に接したほうがいいわけですね。

【長尾】そもそも『孫子』に触れたことがある若い世代というのは決して多くはないですよね。だから、私は『孫子』をまんがで学べる書籍も手掛けています。どのような形であれ、孫子の兵法に一度触れてみるというのはとても意味があることだと考えるからです。

直近のものでは、幼少期から孫子の兵法を学ぶことができる『角川まんが学習シリーズ まんがで名作 孫子の兵法』(KADOKAWA)を監修しています。これは小学生の男女ふたりを主人公に、サッカーで勝つために『孫子』を活用していくという内容になっています。『孫子』の言葉だけ読んでも「当たり前のことを言っているな」というだけで終わってしまう人もいるでしょうが、まんがとして物語が描かれていますので、『孫子』の内容をどのように応用していけばいいかの具体的なサンプルとして自然と理解できるでしょう。