「朝読で読まれる本にしたい」
ヒットの背景には「朝の読書運動」(朝読)がある。小中高で朝の10~15分のあいだ子どもが自分で選んだ好きな本を一斉に読む、という運動である。1988年に千葉県の私立船檎学園女子高校(現東葉高校)で始まり、その後、2000年代に入ってからは読解力をはじめとする学力向上を目的に実施校をさらに増やしていった。2020年1月6日現在、全国の小学校の80%、中学校の82%が実施している(朝の読書推進協議会調べ)。
シリーズの担当編集者である目黒哲也氏(学研プラス コンテンツ戦略室エグゼクティブ・プロデューサー)は「朝読で読まれる本にしたいけれども、子どもの集中力は10分も続かないと思い、半分の『5分』にしたんです」と語る。
『5分後』シリーズの何が画期的だったのか。それは、内容的にもパッケージ(装丁)的にも、児童書を卒業した後の「ポスト児童書」期の子どもが手に取る本としてベストだったからだ。
狙いは“児童書”を卒業した子どもたち
目黒氏は「小学校高学年から中学生くらいまでの男子をターゲットにした本」がほとんどないと感じており、そこに向けた本を作ろうと考えた。
児童書の世界では、小学校中学年以上の男子は「空白地帯」、女子も小学校高学年以上は「児童書コーナーでは本を買わない」と考えられていた。書店でも小学校高学年~中学生向けの本は「児童書コーナー」にはあまり置いていなかった。
ある程度の年齢になると児童書棚に行かないから売れないのだという意見も多かったが「本当か?」と目黒氏は思った。そこで、ヒントになったのは自身の経験だ。
「僕は子どものころ、星新一さんのショートショートが好きでした。『短く読めて、最後にカタルシスがあるお話が好き』なのは今の子どもだって変わらないだろう、と思ったのです」
子どもっぽくなく、大人向け過ぎず
たとえば「講談社青い鳥文庫」や「角川つばさ文庫」などのいわゆる児童文庫。キャラクターを前面に押し出したイラストを配し、小学校中学年から中1くらいまでの子どもたちに支持されている。しかし、発達が進んで「子どもっぽい」と感じる女子や、イラストの雰囲気から「女のものだ」と思う男子がいる。
かといって、一般文芸では大人向けすぎて親しみがなく、ライトノベルも最近では多くが中学生の方を向いていない。13~19歳のいわゆるYA(ヤングアダルト)向けの出版レーベルもあるが、多くは「大人も読める」内容になっており、ローティーン、ミドルティーンにはまだ少し難しい。装丁がピンとこない、または「朝読で読むには長すぎる」ものも少なくなかった。