そこにソフトカバーでもハードカバーでもない、その間のような雰囲気の「仮フランス装」(表紙の4辺を内側に折りたたむ製本方法)に、キャラクター然・マンガ然としていないがポップな(それでいて児童文庫よりはやや大人びた)イラストを配した「1作5分で読める短編集」として5分後シリーズは現れた。

桃戸ハル・菅原そうた『5億年後に意外な結末 ピグマリオンの銀色の彫刻』(学研プラス)
桃戸ハル・菅原そうた『5億年後に意外な結末 ピグマリオンの銀色の彫刻』(学研プラス)

手に取って読んでみると、一編が短いだけでなく、小説を読み慣れていない子でも入っていきやすいようにできていた。『5分後に意外な結末』では小咄や著作権の切れた短編小説の翻案が収録されている。

もとの作品では舞台設定が外国のなじみのない町であったり、いかにも昔の小説といった文体で書かれたりしていたものも少なくないが、そういう敬遠されそうな要素は文章に手を入れて払拭。作品の核を活かし、オチの鮮烈さが今の子どもに伝わるような演出を施した。

これが5分後シリーズが爆発的な支持を集めた理由である。

朝読にとどまらない「時短本」の需要

もちろん、朝読だけでは累計260万部の大ベストセラーとまではいかなかっただろう。きっかけは朝読でも、他の時間でも読みたいと思ったからこそ、ここまでのヒットになったはずだ。しかし、朝読以外の時間で子どもに本を読んでもらうには大きな障害がある。

小中高校生に1カ月間に本を読んだかを聞き、「本を読みたかったが読めなかった」と答えた人を対象に、その理由を尋ねた調査がある(毎日企画サービス『読書世論調査2018年度』)。

これによると、本を読みたかったが読めなかった人が「本を読まなかった理由」のトップは「本を読む時間がなかったから」だった。読みたかったが読めなかった人のうち、小学生では54.3%、中学生では76.7%、高校生では88.4%が該当した。

そもそも本を読みたいと思っていない人間に読ませる(買わせる)のはなかなか難しい。だが本を読みたいという意欲を持つ人間には、適切な作品を、適切なかたちで提供できれば商機はある。

ただし、読みたくても読む時間がないと子どもたちは感じている。時間がないからこそ、読む前から“5分”で“意外な結末”や“感動のラスト”が約束されている本に手を伸ばす人が多かったのだろう。

5分後シリーズは短いだけでなく、タイトルで“意外な結末”や“感動のラスト”と「オチ」が強調されているのもポイントだ。