よって、前述した商法の一連の免責規定は「絵に描いた餅」になっていることも多いというのが現状だ。ホテルは、客に対して、法律の原則論を持ち出すことを避ける。客に不快な思いをさせて帰すわけにはいかないとして、たとえ客観的に非がなかろうと、ホテルの従業員は頭を下げ、償いの額を提示するのが一般的な対応のようだ。

この問題に限らず、国内のホテル業界は、ほとんど言いがかりのようなクレームでも、宿泊客からの要求を何でも受ける傾向にある。「お客様第一」の対応がゆきすぎて、毅然とした態度を取ることをあきらめ、宿泊料を踏み倒される被害も多い。

踏み倒す輩も、そうしたホテル従業員の弱腰な姿勢を知ったうえで、無銭宿泊のターゲットとして狙い撃ちし、理不尽な要求を重ねているのである。

「ホテルのオーナー、経営者は、シビアにものを考えるが、現に宿泊客と接している現場が言うことを聞かないことが少なくない。要求を断ったなら客が減ってしまうと現場が訴えれば、最終的には経営者サイドが折れることもある」(久保内弁護士)

諸外国のホテルでは、クレジットカードなどで身分を証明できなければ、予約がある客であろうと宿泊を断る場合すらある。宿泊客に尽くすことを第一に考える日本流の接客文化とは対照的だといえるだろう。

(高橋晴美=構成 ライヴ・アート=図版作成)