研究者の質も大幅に強化されている。文革後中国政府は、優秀な人材を米国や日本などに大量に派遣し、経済発展が開始された前世紀末頃から百人計画などと呼ばれる人材呼び戻し政策により、優れた成果を挙げた研究者に帰国を促した。これは「海亀」政策と呼ばれ、遅れていた中国の科学技術レベルを一気に世界レベルにまで持っていくことに多大な貢献があった。

現在でもこの人材循環システムは有効に機能しており、トップレベルの学生は北京大学や清華大学などに入学し、必死で勉学に励む。卒業した後、優秀な成績を収めた学生は米国などの有名大学に留学する。優秀な学生が米国などを目指すのは、中国国内の有力大学教授や中国科学院の研究責任者になろうとすると、海外での留学や研究経験が不可欠であるためである。

真の一流国になるために残された課題

では、中国の科学技術の進展は盤石であろうか。すでに図表3で示したように、日本とは拮抗きっこうしているが、世界トップにある米国や欧州先進国と比較するといまだ距離があるとの見方が大勢で、キャッチアップの過程にあると思われる。欧米と並ぶ真の一流国となるには、短くてもあと数年はかかるであろう。

その原因として、まず挙げなければならないのはオリジナリティの不足である。一つひとつの研究でオリジナリティを出していくという点では、まだ欧米などの一流大学や研究機関に及ばない。1のものを10にする研究は盛んとなっているが、オリジナリティが必要なゼロのものを1にする研究が圧倒的に少ない。これはノーベル賞受賞者の少なさの原因でもある。

イノベーションでも課題がある。中国は遅れて経済発展してきたため、すでに欧米や日本で実用化された技術を上手に取り入れ、世界最大の市場をも味方にして、さまざまな技術の国内での実用化・産業化に成功してきた。その過程で外国企業に技術移転を強要したり、他国のIT企業を閉め出したりした例も見られた(例えば、グーグルやフェイスブックは認められていない)。しかし、世界の先頭に並んだ現在では、このような方式は通用しなくなりつつある。中国独自のイノベーションの経験が圧倒的に足りない。