再就職の口があるのはなぜだろう

それ以来、日本を象徴する花を追い続けて四半世紀。桜前線を追いかける旅をするため「会社を5回辞めた」という。とはいえ、毎回、再就職の口があるのはなぜだろう。

写真は、弘前城址の妖艶な桜を撮った中西さんの会心作。

中西さんは横浜国立大学工学部出身で、システムエンジニア(SE)として社会人生活をスタートさせたが、SEとしての再就職は年齢とともに難しくなった。そこで一計を案じ、宅地建物取引士の資格を取得して不動産会社に勤めることにしたのだ。これなら資格が生かせるため、就職先に困らない。ちなみに中西さんは、難関の気象予報士や総合旅行業務取扱管理者という資格も持っている。

桜の季節、中西さんはまるで求道者だ。休日は、前日のうちに桜名所の近くに停めた自家用車で起き、早朝5時には活動を開始。約14キログラムの機材と三脚を担ぎ「これは」という桜を求めてさまよう。見つかれば開花を何時間も待つ。天気が悪い・開花が十分でないときは翌日も待つ。まるで張り込みの刑事だ。活動がマニアックなので1人で動く。

そんな達人が最も推奨する場所は、青森県弘前市の「弘前城址の桜」。染井吉野を中心とした約2600本もの桜が全国的に有名だが、もっと深い理由がある。

「弘前の桜が見事なのは、手入れのよさもあります。弘前市は日本一のリンゴの名産地で、実はリンゴと桜は同じバラ科の樹木。リンゴの栽培技術を桜に応用しているのです。普通の染井吉野の花は高い場所に咲きますが、弘前城の桜は低い場所に咲き、人間の目で見やすく、圧巻です。『7つ咲き』の木もある。通常は1つの花芽から4本ですが、7本咲く。低木に咲き、多く花をつける。結果として、あの圧倒的な花景色になるのです」

中西さんが自らに課す「ノルマ」が2つある。「月花見」と「週花見」だ。ここでは前者の「毎月1回、国内のどこかで(品種を問わず)桜を見る」を紹介しよう。難しいのが7月と8月で、「ネットで狂い咲きの桜を探して見に行きます」。民家の庭なら、事情を話して見せてもらう。自然相手なので計画通りにいかず、強風や大雨は落ち着かない。

本業での秘かな決め事もある。会社員として「休日明けはきちんと出勤する」ということだ。「サクラリーマン」と名乗る通り、中西さんの趣味は職場でも知られている。休日に桜行脚をした結果、欠勤や遅刻をしたのでは職業人としての評価はがた落ちだろう。趣味に没頭するためにも、本業をおろそかにしてはならないのである。