今の時代はデジタル化が進み、今のビジネスがこの先も存在しているのかどうか、わからない世の中になっています。ただそうしたときも、最後には心の持ち方、物事の考え方という「基本」が何よりも大切だと感じます。私にとって『道をひらく』は、悩んだときに基本に立ち返るための本です。

物事の基本を学ぶうえでは、わかりやすい入門書が役立ちます。

岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(新潮文庫)のような、小説仕立ての入門書もいいですし、羽賀翔一『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)のように、名作を基に描かれたコミックスもお勧めできます。

▼新たな視点で世界をとらえる歴史書
東北勤務で初めて知った「賊軍」旧会津藩士の過酷な運命

歴史の光と影を実感

日本最初の鉄道は1872(明治5)年に新橋・横浜間で開通しました。大政奉還からわずか5年後のことです。以後、日本では鉄道中心の街づくりが進むことになります。

戊辰戦争の傷跡が残る会津若松の鶴ヶ城。(読売新聞/AFLO=写真)

それにともない、当初は輸入していた車両を国産化し、線路や車両のメンテナンスのレベルも高くなりました。それは明治の先人たちが、日本の鉄道を自分たちの手でつくっていったおかげです。鉄道の歴史には技術を学ぼうという強い意欲、大胆な発想、そして日本という国を発展させていこうという高い志がありました。その延長線上に今の私たちはあるのです。

しかし歴史には光だけではなく影もあります。歴史における「敗者」の存在にも目配りしなければならないと痛感したのは、JR東日本の仙台支社に勤務していたころのことです。

仙台支社には土地柄、福島県の旧会津藩出身の社員も多くいました。その人たちから折々に聞かされたのが、戊辰戦争で明治政府軍と戦った会津藩の矜持と、藩士たちがその後にたどった過酷な運命のことです。その後、活字になっているものはないかと探して読んだのが、石光真人『ある明治人の記録』(中公新書)です。

主人公の柴五郎は会津の武家の生まれで、戊辰戦争では祖母、母、姉、さらには7歳の妹まで亡くしています。柴自身も故郷を追われ、父とともに旧会津藩主が明治政府から与えられた下北半島の領地に移住し、雪に閉ざされた荒野で餓死寸前の悲惨な生活を体験します。そして必死の思いで東京に出て、食うや食わずの生活を続けながら、陸軍幼年学校の入学試験を突破し、軍人の道を歩み始めるのです。