「仏教者としての責任を痛感」を深く述べるべき

死刑制度に関して私自身の賛否はここでは明確にできないことをお許しいただきたい。ジャーナリストで僧侶の私は、前者の立場であれば「是」である。後者の立場では「保留」したい。教祖麻原彰晃の死刑を、僧侶だからといって「否」と言い切れるほどの、宗教的視座を私は持ち合わせていないのだ。だからこそ、宗教界でこの難しい問題について、活発な議論が必要なのだ。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/TakakoWatanabe)

前出の真宗大谷派の声明については、「仏教者としての責任を痛感」について、もう少し、深く述べて欲しかったと思う。

私は週に1度、東京農業大学で授業を受け持っている。そこで、昨年から2年連続でオウム事件や死刑執行についてのアンケートを実施した。彼らはオウム事件後に生まれた世代である。

アンケートの質問と回答分布は次の通り。有効回答数は624であった。

【問1】あなたはオウム真理教事件に関心を持っているか
①持っている(56%) ②持っていない(20%) ③どちらでもない(24%)

【問2】あなたがオウム事件を知ったのはいつか
①死刑執行の報道を受けて(3%) ②1年以内(2%) ③3年以内(5%) ④5年以内(10%) ⑤5年以上10年未満(36%) ⑥10年以上前(21%) ⑦忘れた(23%)

【問3】あなたは死刑制度に賛成か反対か
①賛成だ(59%) ②反対だ(16%) ③判断がつかない(25%)

【問4】オウム真理教事件の死刑囚について、死刑にすべきは誰か
①教祖・麻原彰晃(松本智津夫)のみ(15%) ②死刑囚である信者全員(64%) ③そもそも死刑制度に反対(10%) ④その他(11%)

【問5】あなたはカルト教団に勧誘を受けたことがあるか
①ある(11%) ②ない(74%) ③カルトかどうかは分からないが、怪しげなセミナーなどに誘われたことがある(15%)

現代の大学生「3割」が勧誘された経験がある

注目すべきは【問5】だろう。「カルト教団からの勧誘を受けた」「怪しげなセミナーなどに誘われたことがある」を合わせれば3割近くになった。

オウム事件後しばらくは、新宗教の勧誘は影を潜めていたかのように思えた。しかし、実態としてはSNSを使った勧誘やダミーサークル、ボランティア団体などを通じて、新たな信者を獲得している。

オウムの後継団体のひとつである「アレフ」は、麻原の死刑執行後も絶対的帰依の姿勢を見せている。また山田美沙子を代表者として、2014年にアレフから分派した「山田らの集団」も、麻原への依存度は高いとみられている。一方、2007年にアレフから独立した「ひかりの輪」は、麻原色を払拭したと主張しているが、公安調査庁は「麻原隠し」をしているとして観察処分を継続している。これらの集団の信者数はおよそ1650人で、年々増加傾向にあるという。

オウム事件後、“完全消滅”したヨガ教室も、最近はどこでも普通に見られるようになった。同時にそれは、オウム事件の記憶が薄れてきていることを意味しているのかもしれない。

かつては存在しなかったSNSを使って、カルトが水面下で勢力を伸ばしている可能性は大いにある。事件から24年。日本の寺が再び、「単なる風景」にならぬよう、仏教者は肝に銘じなければならない。

(写真=AP/アフロ、iStock.com)
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