「死後もつながりたい」共同墓へのニーズ

偕老同穴という言葉がある。夫婦が共に老い、死後は同じお墓に葬られるという意味だが、こうした考えを支持しない人もいる。夫婦でも先祖でもない人と一緒に入りたいという考えもそのひとつだ。自治体が運営する公営の共同墓もあれば、市民団体、お寺やキリスト教会などが運営する共同墓もある。いずれにしても血縁を超えた人たちで入る共同墓は、子々孫々での継承を前提としていない点が特徴だ。

こうした脱血縁墓のなかには、生前のつながりで、死後の共同性を模索する動きもある。例えば1999年に設立された兵庫県高齢者生活協同組合は、県内で5600人ほどの会員を抱える組織だが、2014年、2017年にそれぞれ別の民間霊園に共同墓を建立した。「ひとりぼっちの高齢者をなくそう」「寝たきりにならない、しない」というテーマを掲げ、老いを地域や会員同士で支えあう仕組みを構築してきたが、死後もつながりたいという会員からのニーズが高まってきたのがきっかけだという。

生前にお墓を契約する会員が増えてきたことから、この組織では「永遠の会」を結成し、契約者と遺族を結ぶ会として、年に4回、ランチ会や合同慰霊祭など、会員同士の親睦を図っている。同じお墓に納骨されているという観点からみれば、「永遠の会」は遺族の共同体だが、いずれは自分もここに入るという観点では、死後の共同体であるともいえる。

介護だけではない「死後の安心」を提供

高齢者住宅でも、共同墓を建立している。介護付き有料老人ホーム「宝塚エデンの園」は2010年、兵庫県宝塚市の市営墓地に共同墓を建立したほか、伊豆市にある有料老人ホーム「ライフハウス友だち村」は2012年に、神戸市のサービス付き高齢者向け住宅「ゆいま~る伊川谷」は2013年にそれぞれ民間霊園に共同墓を建てた。

いずれも「子どもに迷惑をかけたくない」「墓の後継ぎがいない」との声が入居者から寄せられたからだという。現に共同墓には施設の入居者自身だけではなく、先祖の墓じまいをして、遺骨を共同墓に改葬する入居者も少なくない。

宝塚エデンの園を運営する社会福祉法人では、全国で運営する有料老人ホーム7カ所のうち、6カ所で共同墓を建立している。介護だけでなく、死後の安心も提供する仕組みだ。多くの共同墓では、入居者たちが年に一、二度お参りをする合同慰霊祭がある。終の住み家を同じくした人たちで、死後も共同性を継続していくという試みだ。

集落で共同墓を作る動きもある。鹿児島県奄美大島にある宇検村では、各家庭の「○○家の墓」を改葬し、集落ごとに「精霊殿」と呼ばれる共同納骨堂を建設し、集落の居住者や集落出身者の遺骨をひとつの納骨堂に納め、共同で供養している。お墓の清掃は集落の住人が持ち回りで月に2回、担当する。血縁を超えてみんなでお墓を管理し、死者を供養していけば、お墓が無縁化する可能性は低くなる。

ライフスタイルや家族関係が多様化するなか、子々孫々でお墓を継承することが不可能な時代になりつつあることは自明だ。一方で、「お墓は長男が継承するので、次男は新しくお墓を建てなければならない」など、思い込みによって精神的な負担を抱えている人も多い。お墓に対する正しい知識を持ったうえで、各自の価値観やライフスタイルに応じたお墓を選びたい。

小谷 みどり(こたに・みどり)
シニア生活文化研究所 所長
大阪府出身。博士(人間科学)。2018年末まで第一生命経済研究所に25年余り勤務。専門は生活設計論、死生学、葬送問題。近著に、『<ひとり死>時代のお葬式とお墓』(岩波新書)、『ひとり終活』(小学館新書)、『没イチ』(新潮社)など。奈良女子大学、立教セカンドステージ大学で講師をするほか、身延山大学、武蔵野大学の客員教授も務める。
(写真=iStock.com)
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