日本は「ゲノム編集」の規制に鈍い
毎日新聞に続いて日経新聞も12月1日付の社説で取り上げ、「ゲノム編集は、容姿や運動能力をよくするなどの目的で受精卵を操作する『デザイナーベビー』などにも使える。今回の出産例をみて、試してみようと考える人が出るのを懸念する声もある」とデザイナーベビーの危険性を訴える。
日経社説はこうも指摘する。
「受精卵の遺伝子改変は、ヒトの進化の道筋さえ人為的に変えてしまう可能性がある。人類全体に影響が及ぶ」
「だからこそ、科学者は慎重姿勢を貫いてきた。ほかに治療法のない難病の場合に限り、リスクと利点を多角的に検討し、安全性を確認したうえで実施を認めてはどうかという議論が進みつつあった」
「そうしたコンセンサスづくりが台無しになる恐れがある。中国当局が中止を命じたとも伝えられるが、当然だ」
生命倫理の問題を正面から論議する能力がない
そのうえで日経社説は主張する。
「日本では、ゲノム編集した受精卵から子が生まれるのは遠い先だとして、規制の検討対象にしてこなかった。しかし、技術の進歩は速い。常に先回りして議論する必要がある」
「今後、各国が法制度を整備する際の指針となる倫理規範や、安全性確認などの国際基準づくりが進むだろう。日本も積極的に役割を果たしていくべきだ」
賛成だ。日経社説が指摘するように、世界の科学者が倫理的に共通の認識を持つことが欠かせない。とくに日本は代理出産などの生殖補助医療や、人生の最後をどう生きるかを決める尊厳死を含む終末期医療についての法整備がかなり遅れている。国会議員の専門部会が法案を用意してはいるものの、国会日程を理由になかなか法案を提出できない状態が続いている。
安倍政権は人の命に関わる生命倫理の問題を国として正面から論議する能力に欠けている。生命倫理に絡んだ法律で本格的に法制化できたのは、1997年6月に法律が成立し、同年10月から施行された臓器移植法だけだ。日本で脳死移植を可能にしたこの臓器移植法にしても「脳死は人の死だ」「いや違う」と国会の審議がかなりの長期にわたった経緯がある。