ゆるキャラだけでイメージはアップしない
第1に、みんなでがんばって、仮にゆるキャラグランプリで1位になったとしても、それによって醸成された市民の一体感や誇りは、あくまで一時的なものにとどまるだろう。それは「中身」がないからである。真に持続的な「市民の一体感や誇り」が醸成されるためには、文化、歴史、風景、人のつながり、食、産品など、そのまち独自の魅力・素晴らしさ(=「中身」)を広く市民が実感し、認識を共有することが必要なのだ。
第2に、ゆるキャラ一つでまちのイメージがアップするとすれば、実にめでたいことだが、そんなことはありえないだろう。既存イメージが形成されてきたのには、それなりの原因があるはずである。その原因を解消するのではなく、ゆるキャラでイメージアップを図ろうとするのは、単なる表面的なごまかしでしかない。
第3に、仮にゆるキャラを通じて知名度が高まったとしても、地域の活性化につながるかどうかは定かではない。確かに、関連グッズが爆発的に売れるなど、経済効果を発揮しているゆるキャラが存在しないわけではない。しかし、それは、くまモンなど、ほんのごく一部のゆるキャラにとどまる。実際、過去のグランプリで優勝経験を持つゆるキャラの中には、その活用が経済効果に必ずしもつながっていないとして、関連予算の見直しが検討されているものもある。
自治体職員の働き方が抱える問題
今回の問題の本質は、「必ずしも効果が定かでないものが目標とされてしまっている」点にある。「真になされるべきこと」が何なのか、見えなくなってしまっているのである。
実はこうしたことは、自治体現場でしばしばみられることである。その意味で、今回の問題は、自治体行政のあり方・自治体職員の働き方の問題点が如実に顕在化した一例にすぎない。
では、なぜこうした事態が生じてしまうのだろうか。少なくとも、次のような要因が考えられる。
第1に、自治体職員に「目的を問う姿勢」が乏しいためである。「何のために、それをするのか」が必ずしも意識化されないのである。典型的な例をご紹介しよう。
※もう一つの事例も含め、嶋田暁文「何が自治体職員の『働き方改革』を阻むのか」『都市問題』2018年7月号で取り上げたものを再録していることをお断りしておきたい。
某県の観光担当の職員は、県内離島のX島にやってきて、次のように述べたのだという。
「県としては来年度は、観光入込客数を増やすために、旅行会社にツアーを年間180本企画してもらうことにしている。ところが、旅行会社によれば、客単価がネックになるという。X島では、ガイド料を計8000円に設定しているが、これが高すぎてツアーを組めないということなので、ガイド料を1000円以内にしてほしい」
この話を聞いた住民は、大変驚き、思わず「えっ?」と聞き直したそうである。それもそのはず、「平成の大合併」で「合併しない」という選択をしたX島では、“(1)島の持続可能性を考えた場合に必要な雇用数が何人で、(2)観光関連の売上額を何年までにいくらまで伸ばせばいいのか、(3)宿泊観光客を何人受け入れればその目標を達成できるのか”をきちんと計算し、計画的かつ着実にその実現に取り組んできたからである。
県職員による提案に基づきガイド料を8分の1にした場合、観光客数が仮に倍に増えても、(客数が増えるのでガイドの労働時間・手間は増えるが)入って来るお金は4分の1に減ってしまう。おまけに旅行会社が企画しているのは日帰りツアーであり、X島に落ちるお金は、ガイド料のほか、弁当代とお茶代くらいにとどまることになる。これでは、地域にとってマイナスでしかない。この県職員は、「何のためにそれをするのか」、「それによって住民自身が本当に幸せになるかどうか」という点への意識づけを欠いている。