薬物問題の改善には「差別」より「包摂」が必要
そのようななかで、オランダやスイス、カナダ、オーストラリア、ポルトガルといった国々は、刑罰によって薬物依存症者を社会から排除するのではなく、社会のなかに包摂し、居場所を与える政策を採用し、薬物問題を改善させるのに成功したわけです。今ではWHOや国連も、「薬物問題を非犯罪化し、健康問題として扱うべし」と各国に申し入れをしており、世界は確実にその方向へと進んでいます。
かつて重篤な精神障害やハンセン病を抱える人たちが、社会からの隔離・排除の対象とされ、深刻な人権侵害が許容された不幸な時代がありました。そして、いまだそれと同じ扱いを受け続けているのが、まさに薬物依存症なのです。
具体的にどんな取り組みが必要なのか。その詳細については、近著『薬物依存症』(ちくま新書)にまとめています。いつの日か、こうした状況が変化すると信じています。関心のある方はぜひ一読ください。
最後にひと言。「相棒」シリーズのドラマはいずれも考え抜かれた、すばらしいエンターテインメントだと思っています。それだけに、番組制作にかかわるスタッフには、今回の指摘を今後の番組作りに生かしてほしいと願っています。
精神科医
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部部長 兼 薬物依存症治療センターセンター長。医学博士。1967年生まれ。93年佐賀医科大学医学部卒業。横浜市立大学医学部附属病院などを経て、2015年より現職。近著に『薬物依存症』(ちくま新書)がある。