“日大ブランド”の凋落は騒動以前から

島野氏が指摘するのは「大企業病」だ。2017年度の日大の「資金収支計算書」によれば、収入合計は実に2600億円超(前年度繰り越し分を含む)。うち最も多くを占めるのは学生生徒等納付金収入で約1088億円、続いて医療収入の約507億円で、補助金収入は約155億円と6%弱にすぎない。さらに寄付金収入だけでも44億円超に上る。

「補助金依存度は、早稲田大や慶應義塾大でも約10%。自前7割、補助金3割などという私大が相当数ある中では、日大の運営の独立性は高いといえます。だから文部科学省も運営面であまり口出しできない。仮に補助金を全額カットされても、何とかやり繰りできそう」

不祥事で志望者が減れば、大きな財源である受験料収入が減少するのは必然だ。が、「『学生は付属校から引き上げればいい』という安心感」(島野氏)ゆえに危機感は薄いようだ。

「アメフト騒動の会見で『日大ブランドは落ちない』と怒鳴った広報担当者の態度からは『大学冬の時代にあっても、日大は安全圏にいる』という、慢心とも思える自負心が窺えます。しかし、日大ブランドの凋落はアメフト騒動以前から始まっていたこと。『司法の日大』も今は昔、日大法科大学院の司法試験合格率は低い。公認会計士試験でも合格者数は専修大学に抜かれ、支援システムに定評があったはずの公務員試験でも実績が下落しています」

日大より序列の上位にある大学が、今やスポーツ畑の優秀な学生を本気で囲い込み、時代に即した学部・学科の新設に注力している。日大はそこに学生を奪われている格好だ。

「『どんな学部も学科もありますよ』と間口を広げるのは、日大最大の“ウリ”でした。しかし、この総合スーパー的なマーケティング手法はすでに他の有力大学に模倣されています。建設業界の役員に日大理工学部出身者が多いのは結構なことですが、ITなど新興系業種の役員に出身者は少ない」

受験生は、その辺りには敏感だ。

「とはいえ、日大の強みがすべて失われたわけではない。芸術学部を設けた経営センスは、いまだ日大が誇れる点。何より、早大や同志社大にもない医学部を持っています。日大が“日東駒専”の筆頭格にある理由は、医学部というステータスゆえ。アメフト騒動でその地位が揺らぐとは考えられません」

だが、現状の維持にすら学部・学科のリストラが不可避だ、と島野氏。

「少子化社会において、拡大路線はすでに時代遅れ。東京理科大は運営が苦しい系列校を自治体に要望して公立化したり、東海大は学生が集まらない学部や学科を統廃合しています。日大でも、合格水準の低下で偏差値判定が不能なBF(ボーダーフリー)の学部や学科が出始めているのですから、実態に合わせて縮小・統廃合する方向でリストラする時代に入ったといえそうです。日大以上に厳しい状況に追い込まれている大学も少なくありません」

大学経営がそれだけ難しい舵取りを迫られる時代、規模の大きさに胡座をかいていては“日大ブランド”の維持は覚束ないのではないか。

島野清志
経済評論家
ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。早稲田大学社会科学部中退。『危ない大学 消える大学』(93年より年度版)など著書多数。