ダメ出しを恐れてはいけない
1.採用時に具体的な仕事のイメージを伝えておく
新入社員が実際に勤務して違和感を覚えるのは、「自分のイメージした業務」と「実際の業務」が違うからだ。たとえば「結婚のイメージは」と質問すると、若い人たちは「結婚式」をイメージする。だが実際の結婚とは、結婚式後の「2人の暮らし」だ。労働も同じ。働いたことがないのだから、断片的なイメージしか持てていない。
だからこそ、採用過程では実際の仕事の内容を具体的に説明して、イメージと現実の乖離が生まれないようにしなければならない。「そんなことしたら、誰も入社してくれない」と反論する社長がいるかもしれないが、本当の姿を偽って採用をしても長続きはしない。具体的なイメージを伝えるためには、若手の先輩社員の失敗談が効果的だ。「失敗からの成功」ほど魅力的なストーリーはない。
2.「教え方」を整理する
新入社員と上司のトラブルは、指導の場面で生じることが多い。「最近の若者は根性がない」などと言っても意味がない。私の実感では、「新入社員のレベル」ではなく「教え方のレベル」に問題がある。日本の義務教育では、「教え方」を学ぶ機会が皆無であるといってもいい。「教え方」を体系的に学ぶことがないまま管理職になってしまう。OJTといえば聞こえはいいが、実際には無手勝流で、しまいには「見て経験して覚えろ」と丸投げになってしまう。
強い会社にするには、新人から一人前になるまでの時間を短縮しなければいけない。そのために、「教え方」を社内で標準化させるべきだ。具体的には、マニュアルや教えることを要素に入れた人事評価制度を導入していくことになる。
3.ダメなものはダメだという
このところ、社員を褒めて育てようという機運が高まっている。人を褒めることは成長を促すことになるので、大いに結構なことだ。だが間違ったことについては、はっきりダメ出しすることも同じくらい重要だ。褒めるのはカンタンだが、ダメ出しはむずかしい。よかれと思って言ったひと言が、パワハラだと批判されかねない。だが、「そんなリスクを取るくらいなら、黙っておこう」という意識がひろがると、組織は次第に崩れていく。
中小企業のトップには、信賞必罰という姿勢こそ求められる。優しいだけで経営が成り立つほど、ビジネスの世界は単純ではない。ダメ出しをして退職する人がいれば、社風に合わなかったものとあきらめるほかない。社長は「何をよしとして何をダメとするのか」を日ごろから明確にして、社員に説明し、共有していくことが大事だ。基本ルールが決まらないと、社員としても部下に何を指摘し、教えればいいのかがわからない。経営計画書などで、明確化させておくべきだ。
「なぜ人を採用するのに、そこまで気を遣わないといけないのか」と疑問を持つ社長もいるだろう。しかし今は、そういう時代なのだ。環境が変わったのだから、社長の意識も変えていかなければ、会社は成長できない。人を雑に扱う会社は、すべてを雑に扱う――。人を大切にする会社はすべてを大切にする――。社員を大切にすることの先に、飛躍がある。