一日の最後は素直に泣こう
疲れた一日の終わりに一人で過ごす時間が持てたら、ラフマニノフの交響曲2番を聴いてほしい。交響曲は全部聞くと一時間はかかるが、ぜひ時間を割いてもらいたい。疲れた自分自身のために、自分磨きに使うと決める。フェイスパックを貼ったり、ネイルを塗り直す時間に使いながら、このラフマニノフの泣きそうになるくらい優しいメロディを聞くといい。
私は常々、交響曲こそセルフネイルにふさわしいと説いている。二時間サスペンスや映画一本は、ネイルには長すぎるし、なかなかそこまでの時間は取れないが、交響曲一曲分の時間ならなんとか捻出できる。
凝ったデザインのジェルでなければ一時間でなんとかなるし、乾かす時間が必要なネイルカラーでも、交響曲一曲終わるまで我慢すれば乾燥までもっていける。乾ききらない間に何かをしてせっかく塗ったネイルが剥げたり、寝てしまってシーツの跡をつけたりする失敗を回避できる。
それに、ラフマニノフの楽曲には、疲れてクタクタになった心と体にイソフラボンを充填させるような女性に対する優しさがある。甘く、切なく、ロマンチックで分かりやすいメロディが多い。そんな女性ホルモンに良さそうな曲を聞きながら、ネイルを塗りフェイスパックを貼り、音楽と共に自分のためだけに使う、贅沢な一時間。
1楽章の激しい勢いの中で、まずはしっかりと爪にやすりをかける。甘皮もきちんと取る。2楽章の軽快な始まりに合わせてテンポよくカラーを塗り始める。そして作業が一通り終わった頃に訪れる、涙がでそうなほど美しい3楽章。3楽章の切ないメロディが刺々しい心を優しく撫でてくれる。男性気質とも言われる気迫で頑張る我々にふと、昔は小さくてか弱い女の子だったことを思い出させてくれる。
今では誰にも頼らず、なんとか自分の足で立っている。強がっているし、見た目に気を配るのも一種の努力だ。頑張らないとできない。そんな我々にラフマニノフは問う。頑張りすぎていませんか。あなたはもっと素直になってもいいんじゃないですか、と。
クラリネットの甘い旋律をたどっていくと、胸から熱いものがこみ上げてくる。爪が乾ききっていないから、ティッシュを取り出せず、ルームウェアの袖で涙を拭うことになるだろう。それでもいい。泣ける時に泣こう。デトックスをしよう。一人の時くらい、泣いたっていいじゃない。
我々は頑張りすぎている。何役も一人でこなしている。そしてさらに、誰かに甘えて頼ることが苦手だ。今だって、こうしてなぜか涙を出してしまったけれど、明日になったら何事もなかったように、また明るく振る舞うことができる。誰が気づくだろうか、その完璧に塗られたネイルの裏で、一人ルームウェアで涙を拭った時間があったことを。
ラフマニノフの楽曲には、彼の寂しさや祖国への思い、時代の中で生きる辛さがある。その辛さを超えた優しさが、今の私たちに癒しを差し出してくれるのだ。聞きやすく、流れのはっきり分かるこの交響曲を聞きながら、美しい外見を作り上げながら、心をデトックスしてほしい。
頭の芯まで疲れた夜。取れかけたネイルを塗り直して、明日のためにまた頑張りたいと思うあなたに、心からのリラックスを。そして本当の美しさを。頑張りすぎている。でも優しい音楽に癒され、自分を磨きながらこっそりと涙を流し、そして立ち直って頑張れる。この強がりと心意気が、私たちのアイデンティディなのだ。
・ヴィラ=ロボス「ガボット・ショーロ」
・伊福部昭「怪獣大戦争マーチ」
・ラフマニノフ「交響曲第2番」