神奈川県が横浜市大の提案を拒絶した理由

神奈川県のパワハラ認定も一方的だった。2月2日に配信されたエムスリーの記事「神奈川県病院機構、県に真っ向から反論、医師退職問題」によると、神奈川県庁の調査報告書では、「病院機構の監査・コンプライアンス室が医師間のパワハラ事案(筆者注放射線科内部のパワハラ)を認定している」が、これは事実とは異なる。

土屋理事長の説明によれば、病院長から報告を受け、監査コンプライアンス室にヒアリングを指示した。この人物は神奈川県警のOBで、この手の問題への対応には慣れている。彼は「ハラスメントに認定しうる」と判断したが、被害医師からパワハラを訴える医師はいないことを確認したため、「ハラスメントの要件は満たさない」と判断し、土屋理事長に報告した。専門家は、パワハラ認定は、あくまで当事者の意向を優先しているようだ。土屋理事長は、加害医師に対して口頭で注意した。適切な対応だと思う。

神奈川県の問題は、これだけではない。放射線科医不足も、もとは神奈川県庁がまいた種だ。重粒子線治療施設の計画が持ち上がり、放射線治療医を確保することが必要となったのは2009年。このとき神奈川県立がんセンター内に横浜市大大学院を設置し、放射線科医を育成する話が提案された。

しかし神奈川県は横浜市大の提案を拒絶した。当時のことを知る県立がんセンター関係者は「中山部長が『横浜市大に頼らなくても、医師は自分たちで確保できる』と言った」という。土屋理事長によれば、「14年に神奈川県立病院機構に赴任したとき、横浜市大幹部から『いろいろと経緯があって、先生には協力できない』と言われた」そうだ。土屋理事長は、「今回、はじめて全貌がわかった」という。

120億円の施設が止まれば、引責辞任がスジ

神奈川県が立ち上げた医師確保対策委員会(委員長首藤健治副知事、大川病院長と県職員7人で構成)も、奇妙な存在だった。神奈川県は土屋理事長に対して「医師確保はこちらでやるから、そっちは動かないでほしい」と指示した。こんなことは、県と独法の関係を考えればありえない。神奈川県の越権行為だ。

このことを記者会見で追及された黒岩知事は「緊急事態だから」と苦しい説明をしたが、緊急事態だから超法規的に動いていいという道理はない。

神奈川県がやるべきことは、独法への支援だ。一般指示や医師確保ではない。ところが神奈川県はいまだに県直営病院の意識でいる。だからこそ、県庁に「医師確保対策委員会」という組織まで作った。これが、病院機構も神奈川県も責任をとらない「無責任体制」を招いた。

120億円を費やした重粒子線治療施設が止まれば、責任者は引責辞任するのがスジだ。ところが、県立がんセンターの大川院長も、2人の副知事にも、そんな覚悟はないようだ。

「神奈川の仲間割れに巻き込まないでほしい」

私には、大川院長は「土屋憎し」だけで動いているように見える。大川院長は、院内で「医師派遣を求めた群馬大と東京大学から『土屋理事長が怖いので、辞めないと人は出せない』と言われた」と報告している。

こんな発言を信じる人はいないだろう。飲み屋の愚痴でもあるまいし、大学が「××さんが怖くて」などというはずがない。現に、今回、県立がんセンターに残ったのは東大医局に所属する若手の女性医師だ。

群馬大学のある教授は、土屋理事長に対して、大川院長の発言を明確に否定したという。知人の群馬大学出身者は「腹腔鏡事件で世間から批判されている現在、理事長が嫌いだから医師を出さない、引き上げるなんて言うことはあり得ない。神奈川の仲間割れに巻き込まないでほしい」という。