知事にゴマすり、利益誘導に励む議員たち
――松沢さんは神奈川県議会議員の頃から知事など首長の多選について警鐘を鳴らしてきました。多選はなぜいけないのですか?
【松沢】私が県議会議員になったのは5期20年も続いた長洲一二知事の時代です。あの頃の県政を経験したことが私の多選批判の原点になっています。「権不10年」といいますが、長く続けば権力は必ず腐敗します。長洲県政も例外ではなかった。共産党を除いてオール与党といわれた議会では、知事による行政運営をチェックするのではなく、知事とのパイプを誇り自分の選挙区に利益誘導を図る議員が目立ちました。その姿が健全であるわけはありません。
多選による弊害はいくつも指摘されています。たとえば意思決定の独善化、側近政治の横行、職員の士気低下、いま述べたような知事と議会との癒着、さらには県が補助金を出している利益団体との癒着というものです。そのため自民党、民進党、公明党といった主要政党は、4期目以降の知事・政令市市長候補の公認や推薦をしないという方針を打ち出しています。
――しかし問題があると言われながらも、毎回正当な選挙で選ばれるのだからいいじゃないかという意見もありますね。埼玉県の上田清司知事(69歳)は自ら連続3期を上限とする多選自粛条例をつくりながら、2015年、「県民の期待」を理由に4期目に立候補し当選しました。
【松沢】上田さんをはじめ安定的な政権運営をしている知事はほぼみなさん、県議会や県内市町村長から「ぜひ知事を続けてほしい」という要請を受けて1期ずつ任期を延ばしていきます。知事自身に邪(よこしま)な考えがあるわけではないでしょう。しかし問題なのは、絶対的な権力者である知事を長く務めれば議会によるチェックが効かなくなり、知事の判断に異を唱える者もいなくなることです。知事によっては「いいものは長持ちするんだ」とうそぶき、長期県政を正当化するようになる。つまり裸の王様になっているのですから、これが一番怖いことです。
そして選挙戦に当たっては、知事としてのそれまでの仕事が事実上の選挙活動となりますから、知名度の低い新人候補に対して現職は圧倒的に有利です。これが各地に多選知事が生まれてしまう背景です。現職が強いのはそういう構造があるからですが、選挙に勝ってしまうため関係者は「民意は長期政権を望んでいる」と勘違いしてしまう。埼玉県だけではなく兵庫県、茨城県も事情はまったく同じでしょう。