不愉快で、あからさまな浸透力

権威主義国が他国に影響を及ぼす方法には、あからさまに権力を行使するスタイルと、もう少し巧妙なスタイルとがあります。ここでのポイントは、権威主義国では政治的、軍事的目的と、経済や文化の諸側面がつながっているということです。権威主義政府は、日頃は別々に動いているように見える経済や文化の諸勢力に対して、政治的目的に基づく命令を課すことができます。自由主義と資本主義を採用する先進国では起きないことが、いつでも起こり得る状態にあるのです。

中国社会を見るときに重要な視点が、この「いつでも起こり得る」という感覚です。現在の中国社会は、多くの面で日本や欧米より進んでいます。元気の良いハイテク企業は、次々に社会へと新技術を導入しており、変化のスピードは加速するばかりです。都市住民は洗練度を増し、上海や北京では国際的な感覚をもったアーティストや知識人が活躍しています。

しかし、それはすべて一夜にして変化し得ること。中国の誰もが、頭の片隅でそのことを意識しながら暮らしています。法律や犯罪とは異なる意味で、けっして超えてはならない一線が意識されるのです。

中国の圧力をあからさまに受けていた韓国

あからさまな権力行使の例に話を戻すと、日本人として記憶に新しいのは、携帯電話などハイテク製品に使われているレア・アースの事実上の対日禁輸措置でしょう。中国側の態度の軟化と、日本側が官民を挙げて中国依存度を下げるための努力を続けたことで鎮静化していますが、いつまた類似の措置をとってくるかわかりません。

直近、中国の圧力をあからさまに受けていたのは韓国でした。米韓同盟の一環として北朝鮮の弾道ミサイルに対抗するTHAADシステムの導入をめぐる中国の反発です。

中国は、これが自国のミサイル攻撃力を弱めるものとして激しく反発し、サムスンをはじめとする韓国企業の中国国内での活動に嫌がらせをし、なおかつ、韓国への中国人観光客の渡航を制限する措置に出たのです。中国からの観光客に依存する韓国の観光地が各地で悲鳴を上げ、政権に圧力をかけたのは言うまでもありません。結局、韓国はTHAAD導入を現状の水準で維持すると宣言し、中国に許してもらったのでした。

中国研究者として“食っていけなく”する

より、柔軟な影響力行使の方法論がシャープパワーです。相手国の世論形成に影響力をもつ学者、ジャーナリスト、政治家などに対して様々な手が打たれると言います。

学者に対しては、学者の活動を支える研究費や資料へのアクセスをコントロールすると言います。中国に好意的な研究を行う学者には、研究費も資料へのアクセスも豊富に提供することで、次第に親中的な言説が目立つようになるのです。中国に対して、敵対的とは言わないまでも批判的な言説を展開するだけでも、中国研究者として"食っていけなく"するのです。