嫌っているのは「自らの立場を危うくする変化」

2つ目は、変化してこなかった過去へのあきらめと現状が大きく変化することへの不安を抱いている場合で、こちらはベテラン層で多くみられます。昔は自分も前向きな気持ちで色々とチャレンジしたけど結局変わらなかったというあきらめと、時間をかけて蓄積した自らの経験・スキルやせっかく築いた現在のポジションが変化で無意味なものになってしまうのではという不安があるのです。

しかし、長年仕事をしてきた組織・現場には愛着をもっているケースが多いため、この点を最大限引き出すようにします。また、一見変化を嫌っているように見えますが、より正確に言うと嫌っているのは「自らの立場を危うくする変化」です。前述のように組織や職場には愛着があるので、彼らの立場を保証した上での変化であれば、前向きな協力を得られる余地があります。

弊社が支援したある自治体では、活動開始にあたって定年退職間近の課長クラスが活動の抵抗勢力として立ちはだかりました。そこで実施したのが、活動を担っている彼らの部下たちから活動内容の報告を受けるかわりに、課長クラスの彼らに活動結果への責任を持たせること。活動内容に応じて、適切なサポートをしてもらうことを求めたのです。活動の開始直後は後ろ向きだった彼らですが、プロジェクトから頼りにされ活躍の場面も与えられたことで、活動の大きな後ろ盾となっていきました。

このように、活動に抵抗する理由ごとに適切な対処をすることで、活動の向かい風を追い風に変えることができるのです。

新たな取り組みに対する「どうせムリ」「面倒くさい」という反応にも、人が根源的に備える特性・過去からの経験・自らのスキルへの自信不足など、様々な理由があります。皆さんの目の前にいる後ろ向きな方は、一体どのようなタイプでしょうか。ぜひ、上記を参考にアプローチをしてみてください。

岡内 彩(おかうち・あや)
OJTソリューションズ 経営企画部
東京大学教育学部卒業。トレーナーや顧客企業への取材を通じて、人材育成のコツや強い現場づくりに必要な要素などの形式知化を進める。OJTソリューションズ: 2002年4月、トヨタ自動車とリクルートグループによって設立されたコンサルティング会社。トヨタ在籍40年以上のベテラン技術者が「トレーナー」となり、トヨタ時代の豊富な現場経験を活かしたOJT(On the Job Training)により、現場のコア人材を育て、変化に強い現場づくり、儲かる会社づくりを支援する。 本社は愛知県名古屋市。60人以上の元トヨタの「トレーナー」が所属し、製造業界・食品業界・医薬品業界・金融業界・自治体など、さまざまな業種の顧客企業にサービスを提供している。 主な著書に20万部超のベストセラー『トヨタの片づけ』をはじめ、『トヨタ仕事の基本大全』『トヨタの問題解決』(すべてKADOKAWA)など。
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