私もいっぱし「スクープを取る」と、夜な夜な知り合いのブンヤや作家、ライターを誘い出して大酒を呑み、首輪のない猟犬だとほざいて人脈だけは広げていったが、スクープとはまったく縁がなかった。

「わが社も一流企業の仲間入りができた」

そんな私が編集長になれたのは、講談社も業界もバブル景気に沸いていたからであろう。

講談社は『ノルウェイの森』(村上春樹・88年)、『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子・91年)、『日本をダメにした九人の政治家』(浜田幸一・94年)、『失楽園』(渡辺淳一・97年)、『五体不満足』(乙武洋匡・99年)など次々にベストセラーを出し、95年から97年まで売り上げ2000億円超、粗利で200億円をたたき出していた。

出版界のピークも96年に記録した2兆6000億円超である。あいまいな記憶で申し訳ないが、講談社の応募者に東大生の姿が目立つようになってきたのは、世間のバブルがはじけた93年頃からではないだろうか。

初任給もそれなりによかったが、出版業界が安定成長している業種だと思われるようになってきたのであろう。毎年20人~30人しか採らないが、東大生が早稲田や慶應を押しのけるようになってきた。

経営陣が、多くの東大生が受験に来てくれることで、わが社も一流企業の仲間入りができたと喜んでいると聞いたことがある。

しかし、98年頃から出版業界全体が右肩下がりになる。出版データブックによると、98年は「未曽有の出版不況、いずれも減収減益」、99年は「出版不況3年連続、前年割れが続く」とある。少し遅れてやってきた出版業界のバブル崩壊は壊滅的な打撃を与えながら、今も続いている。

16年度の電子書籍を含めた総売り上げは1兆6618億円。講談社の売り上げ(2016年11月期)は1172億8800万円。ピーク時に比べて、業界全体では1兆円、講談社も800億円減らしている。