社員の幸せを追求する経営は成り立つのか

ココネは非上場企業で、業績は非公開だ。事業規模は拠点数や従業員数で把握するしかないが、オフィスは東京とソウルにあるほか、仙台と京都にデザインスタジオがあり、2016年には英語教育の研究とアプリ開発、教育支援をする「言語教育研究所」を開設した。

ソウルオフィスも含めた全社員数(正社員・契約・アルバイト)の推移は、2016年1月に168人、2017年1月は238人、2017年6月は289人と、アプリの普及とともに成長していることがうかがえる。

また、社員をいたわる数々の施策を打ち出すとともに、効率的な働き方を推進しているため、むしろ残業時間は減っているという。IT系の開発企業では長時間労働を強いられる企業も少なくないが、同社の場合、従業員の平均的な働き方は、事業部門は9時半~18時半、コーポレート部門は9時~18時の勤務時間が基本で、月間の平均残業時間は30時間前後。月平均労働時間は200時間程度である。

効率的な働き方を推進しているため、残業時間は減っているという。

恵比寿オフィスでは、9時半と14時の1日2回10分ずつの全社瞑想、正社員の希望者は1日15分のストレッチができる。「ジムトレーニングやマッサージ等は自己裁量で業務時間中に利用が可能なため、実労働時間は上記の200時間よりも短いと思います」(北村氏)。

つかみどころがないように思える経営だが、事業規模を追わず、競争の勝ち負けを重視しないという“逆張り”の経営方針を掲げる企業はココネだけではない。例えばグーグルは、相手を察する「情動的要素」、相手を理解する「認知的要素」、相手を助けたいという気持ちに基づく「動機的要素」を軸にした“思いやり(compassion)の経営”を提唱している。それによって仕事が楽しくなり、社員の創造性が増し、さらに利益が生まれ、他者との駆け引きのルール自体が変わるという発想である。

ココネの社員の幸せを追求する経営も、グーグルに通じるが、決定的に違うのは、利益を最大の目的として問わないことだ。「そういう施策がはやりだから乗ったわけではないし、社員の心身が健康になれば精神的に安定してよく働けるからということでもない。働くかどうかは本人の意思次第。とにかく中にいる人が幸せで健康であってほしい。それ自体が目標になっているのです」と石渡氏は言い切る。

市場経済の中では資本の増大やスピード化が強調され、社員は利益貢献を求められる。しかしココネの経営姿勢は、市場経済の厳しい父性原理ではなく癒しの母性原理、北風ではなく太陽、といったところか。しかし、会社そのものがだれのために・何のために・どういう存在でありたいのか、働く人がどのくらい幸せであるかという基軸で考えれば、同社の取り組みはあながち異質とは切り捨てられない。幸せを愚直に追求する経営は果たして永続するのか、同社のチャレンジは一つの試金石といえそうだ。

上本洋子
フリーライター。1966年、北海道生まれ。弘前大学人文学部卒。財界さっぽろ、日本能率協会マネジメントセンター「人材教育」編集部を経てフリーのライターおよび書籍編集。 企業経営・組織・人材育成・働きがいに関する記事を執筆。横浜中華街に住む高齢出産一児の母。
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