機嫌良く、質高くできるご機嫌なマネジメント

【三宅】私と先生の出会いは『ゾーンに入る技術』という先生の本です。出張先の岡山駅で買い求め、東京に戻る新幹線の中でむさぼるように読みました。非常に衝撃的だったのは「自分の機嫌は自分で取る」という部分です。

心というのは、自分にとって大切なものだけど、われわれは常に周りの出来事とか、過去の経験とか、将来の心配とかに心が揺らいでいる。それを克服して自分の心は自分自身で決めるべきだということですね。これはぜひ社員にも伝えようということで、当社に講演に来ていただきました。現在も引き続き「フロー研修実践セミナー」を受け持ってもいただいています。そこでまず、冒頭でも触れました「Flow」について説明していただけますか。

『対談! 日本の英語教育が変わる日』三宅義和著 プレジデント社

【辻】人生の質を作っているのは心だということから人間のパフォーマンスを考えてみると、2つの構成要素で成り立っていることがわかります。

1つは内容。何をするかというのが人間のパフォーマンスの根幹にあるわけです。戦略といってもいいでしょう。もう1つが質です。どんな精神状態で行うのかということですね。それがパフォーマンスを決めます。

スポーツの場合は、戦略が正しくても、強い心が伴っていないとパフォーマンスの質が落ちて負けます。まず、心があって、その状態がパフォーマンスの質を決めて、勝敗が決していきます。その構造は非常にわかりやすいのです。

実はこのことを400年も前に言った有名な日本人がいました。宮本武蔵です。彼は、人生の目的を剣の道をきわめることにおき、とにかく強くなるために、常に心を整えていました。この2つがあったればこそ、天下無双の剣豪として名を馳せました。このやるべきことを質高くやるということが、僕のテーマでもあります。

そのための心の整え方として、『スラムダンク勝利学』を書いた頃は、心の揺らぎをどうするかだけでしたが、いまはとらわれということの恐さも重視しています。質の高い行動をしている心の状態は揺らがないし、とらわれてもいない。

この状態を、わかりやすく表現する方法はないかなと考えたわけです。揺らがずというのは心理学でいうと、セルフイメージが大きく安定していること。とらわれずというのはセルフコンセプトが柔軟で質のいい感じということですが、この両方を総合的に表現しているキーワードが「Flow」です。シカゴ大学のミハイ・チクセントミハイという心理学者が提唱した考え方で、人間の職業や行動に関係なく「Flow」という心の状態だと、質の高いパフォーマンスを安定的に作れると説いています。

それを僕は、実学として現場で応用しようと思いました。スポーツ心理学や脳科学の成果から、結局心の状態は、自分の脳が作り出すとわかっています。しかし、三宅社長の言われたようにいつも私たちは外界の出来事に左右されがちなんですね。

そうではなく、人生の質に大きく影響している心というものを、自分でマネジメントしていくということが、すごく重要です。そのために「Flow」の状態を、どう表現したら日本人にはわかりやすいかなと思って行き着いたのが「機嫌のいい感じ」という言い方でした。

日本人の機嫌のよさを表現するのは、英語の「fine」や「happy」「positive」だけではありません。いろんな機嫌のよさを、僕らは知っています。そんな心の状態をマネジメントしていくことが可能だということを、みんなに伝えたい。それが、先ほどご紹介いただいた「辻メソッド」です。

それを一言で表現すると、するべきことを機嫌よく、なすべきことを質高くできる、とにかく、ご機嫌なマネジメントのための脳の練習といっていいでしょう。スポーツだけではなく、芸術であれ、ビジネスパーソンの毎日の仕事であれ何事もそうです。

(岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)
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