日本の技術輸出が温暖化防止に大きな効果を生む

ここで求められるのは、最も多くCO2を排出する石炭火力の効率を改善することができれば、CO2排出量を最も多く減らすことができるという、柔軟な「逆転の発想」である。06年の発電電力量に占める石炭火力のウエートを国別に見ると、日本が27%であるのに対して、アメリカは50%、中国は80%、インドは68%に達する。発電面で再生可能エネルギーの使用が進んでいるといわれるドイツにおいてでさえ、石炭火力のウエートは48%に及ぶ。世界の発電の主流を占めるのはあくまで石炭火力なのであり、当面、その状況が変わることはない。国際的に見て中心的な電源である石炭火力発電の熱効率に関して、日本は、世界トップクラスの実績を挙げている。したがって、日本の石炭火力発電所でのベストプラクティス(最も効率的な発電方式)を諸外国に普及すれば、それだけで、世界のCO2排出量は大幅に減少することになる。

IEAが06年に発表したデータにもとづく経済産業省の試算によれば、中国・アメリカ・インドの3国に日本の石炭火力発電のベストプラクティスを普及するだけで、CO2排出量は年間13億4700万トンも削減される。この削減量は、90年度の日本の温室効果ガス排出量の107%に相当する。日本の石炭火力のベストプラクティスを中米印3国に普及しさえすれば、鳩山首相がCOP15へ向けて打ち出した25%削減目標の4倍以上の温室効果ガス排出量削減効果を、20年を待たずして、すぐにでも実現できるわけである。

一方、LCAとは、商品が環境に与える影響を、原・燃料の採取から製造加工・販売・消費を経て廃棄にいたるまでの全過程を視野に入れて評価する方法である。

日本が温暖化対策の国際的主役になるためには


世界のエネルギー起源CO2排出量の国(地域)別構成比(2007年)

LCAの考え方に立って、世界的な規模でCO2削減に取り組んでいる業界としては、化学業界をあげることができる。この考え方に立てば、化学製品を使用することによって、断熱、照明、包装、海洋防食、合成繊維、自動車軽量化、低温洗剤、エンジン効率、配管、風力発電、地域暖房、グリーンタイヤ、太陽光発電などの諸分野で、温室効果ガス排出量を大幅に削減することができる。

ICCA(国際化学工業協会協議会)が09年のイタリア・ラクイラサミットにあわせて発表した報告書は、「化学工業により可能となる温室効果ガス排出量削減は、同業界による排出量の2.1~2.6倍に相当し、30年までの削減可能性は4.2~4.7倍に達する」、と結論づけている。日本の化学工業協会は、ICCAにおいて、中心的な役割を果たしている。

地球温暖化を止めることは、人類にとってもはや避けることのできない最重要課題の一つであり、現実的で有効な防止策の早急な実施が求められている。そのためには、これまでCOPの場で取り組まれてきたような国別アプローチだけでなく、セクター別アプローチやLCAの手法を総動員する必要がある。

温室効果ガスの削減にとって、国別アプローチは、民生部門や業務部門では有効性が高い。一方、セクター別アプローチは、産業部門・発電部門(エネルギー転換部門)・運輸部門でとくに威力を発揮する。LCAは、これらすべての部門に深くかかわりあっている。ストップ温暖化を真剣に推進するためには、国別アプローチだけにとどまらず、セクター別アプローチやLCAを組み込むことがきわめて重要である。セクター別アプローチとLCAは、温室効果ガス排出量削減に関して日本が切ることができる「二大カード」といえるものであり、これらを行使することによってわが国は、ストップ温暖化の国際的主役となりうるのである。

(平良 徹=図版作成)