日本の目標達成は温暖化ストップにつながらない
温室効果ガス排出量の大きな部分(世界では62%、日本では89%)を占めるのはエネルギー起源のCO2(二酸化炭素)排出量であるが、図は、そのエネルギー起源CO2排出量の国(ないし地域)別構成比を示したものである。この図からわかるように、日本のCO2排出量は世界のそれの4%強を占めるにすぎない(07年の世界のCO2排出量は290億トン、日本のCO2排出量は12億トン)。
つまり、日本が20年までにCO2排出量削減の25%目標を達成したとしても、それだけでは、世界のCO2排出量は1%強(4%強×25%=1%強)しか減らないわけである。「日本が25%目標を達成したとしても、地球温暖化をストップするうえでの貢献度はそれほど高くない」と言った理由は、ここにある。
それでは、日本は、地球温暖化をストップするうえで、主導的な役割を果たせないのだろうか。答えは断じて「否」、すなわち、わが国は、適切なやり方を採用しさえすれば、ストップ温暖化の国際的主役ともなりうるのである。
それでは、わが国がとるべき「適切なやり方」とは何か。筆者(橘川)がプレジデント誌のこの欄で再三書いてきたように、「適切なやり方」とは、セクター別アプローチとLCA(ライフサイクルアセスメントないしアナリシス)のことである(プレジデント誌08年11月17日号掲載の「新・環境標準『セクター別方式』を世界に広めるカギ」、09年3月16日号掲載の「日本の石炭火力技術は世界のCO2削減の切り札である」、09年8月31日号掲載の「費用対効果にみる、CO2削減『日本の二大カード』」参照)。
セクター別アプローチとは、温室効果ガスの排出量が多いセクター(産業・分野)ごとに、国境を越えてエネルギー効率の抜本的向上を図り、温室効果ガス排出量を大幅に削減しようとする考え方である。このセクター別アプローチに最も熱心に取り組んでいるのが、鉄鋼業界である。
APP(クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ)によれば、アメリカ・中国・インド・韓国・オーストラリア・カナダ・日本のアジア太平洋7カ国の製鉄所に世界最高水準を誇る日本国内の製鉄所の省エネ・環境技術を移転・普及すれば、現状の生産規模を維持した場合でも、CO2排出量を年間1億3000万トン削減することができる。
この削減量は、90年度の日本の温室効果ガス排出量12億6100万トンの10%強に当たる。日本は、現在、08~12年の平均値で温室効果ガス排出量を90年比6%削減するという、京都議定書によって義務づけられた目標を達成するために大変な努力を重ねている。日本鉄鋼業が実現した既存の最高レベルの省エネ技術を諸外国に普及することができれば、京都議定書で日本に義務づけられた規模の温室効果ガス排出量の削減は、すぐにでも超過達成されることになるわけである。
さらに、IEA(国際エネルギー機関)のデータによれば、日本の製鉄所の最高水準にある省エネ・環境技術を全世界に移転・普及した場合に削減されるCO2排出量は、年間3億4000万トンに達する。この削減量は、90年度の日本の温室効果ガス排出量の27%に当たり、鳩山首相が掲げた25%削減目標を上回る規模のCO2排出量削減が、20年を待たずに実現することになる。
鉄鋼業界ほどには国際的な取り組みが進展しているわけではないが、セクター別アプローチの潜在的効果の大きさという点で、特筆に値するのは、石炭火力セクターである。やや意外なことに、キロワット時当たりCO2排出量が最も大きい発電方式である石炭火力は、じつは、「CO2削減の切り札」と呼ぶべき存在である。