旭化成建材のデータ改ざんが起きた理由
横浜市のマンションで傾きが見つかった問題で、杭打ち工事を担当した旭化成建材のデータ改ざんが発覚した。この杭打ちデータ偽装問題は、前述した経営トップの暴走や抗争に起因するものとはタイプが異なる。経営者の資質や企業体質というより、業界の重層的な下請け構造が根本的な原因だ。問題の傾きマンションの販売元は三井不動産レジデンシャル、施工元請けが三井住友建設で、1次下請けが日立ハイテクノロジーズ、そして2次下請けで杭打ち工事を請け負ったのが旭化成建材だった。発覚当初、「ヒアリングしてルーズな印象を受けた」などとデータを改ざんした現場責任者に責任を押し付けるようなことを旭化成建材は言っていた。だが、その後の調査で横浜のマンションの現場責任者だけではなく、複数の現場責任者がデータを偽装していたことが判明。また旭化成建材が過去10年に請け負った物件3040件のうち2376件の調査が終わった段階で、266件のデータ偽装を確認したと発表。さらに業界大手のジャパンパイルも杭打ちデータの偽装があったことを認めた。データの改ざん・流用は現場の担当者個人の資質に帰するべき問題ではなく、業界に蔓延る悪癖であるとわかってきた。
恐らく、予定していた硬い地盤に杭の長さが届かないケースなど、いくらでもあるのだろう。横浜のマンションではたまたま傾きが出て発覚したが、何百本と杭を打つ中で数本手抜きをしても普通はバレない。実際、強度に大きな問題はなく、横浜の傾きマンションにしても杭が10本足りない想定で「震度7でも倒壊の恐れはなし」という調査結果が出ている。何百本と杭を打つ現場では届かない杭が何本かあっても許容範囲の世界なのだろう。杭を打ち直して工期が延びたり、余計なコストが増えるのを元請けは嫌う。下請けだって他の仕事との兼ね合いがあるから、工期優先で手抜きをしても間に合わせようとする。しかし、上に報告する施工データは整えなければならない。だから適当に改ざんしたり、データを流用して誤魔化す――、というのが実態なのではないか。
本来、そうした不正をチェックするのは、工程管理をする1次下請けや元請けの役割だ。しかし、現場に四六時中張り付いてチェックするような仕組みにはなっていない。それどころか、専門家に丸投げして、むしろ安心している側面があるのだろう。東洋ゴムや旭化成で問題を起こしたのは全社の数%にすぎない子会社、事業部である。これはメーンの事業部ではない“末席”事業によくありがちな「プライドを持てない事業部の構造問題」といえる。切り離してみれば「立派な大きさ」なのだから独立させて、やる気を出させるに限る。大企業が突然事件に巻き込まれる予防策は目の届かない小さな事業をいつまでも抱えていないで分離独立させることだ。