役員すら逃げ出す会社に残る人の心理とは
──山一證券に関していえば、“背信の階段”を上らなかったために出世コースから外れたり、“場末”と呼ばれる部署に飛ばされたりした社員たちが、最後まで顧客への清算業務と真相究明を続けたという。清武さんの著作『しんがり 山一證券 最後の12人』では、当時の様子がノンフィクションで克明に描かれている。何が彼らを突き動かしていたのだろうか。
役員や出世コースにいた社員たちが我先にと逃げ出すなか、彼らは会社に踏みとどまり、“日本の社内調査報告書の原型”とも言われるすばらしい報告書を仕上げました。どちらかと言えば、それまで社内では不遇な扱いを受けてきて、さらに磐石かと思われた職を失い、持ち株は紙くずになった。一部の人は3カ月間無給でしたから、正直言って、彼らのモチベーションがどこからくるのか私もわからなかったんです。当時の心境について聞いてみると、「親の葬式の準備をするときに文句を言う子どもはいないだろう」と言った人もいたし、「自分のためにも、一緒に働いてきた同僚のためにも、山一證券が知性のない愚かな会社だと言われないようにしたかった」と答えた人もいました。“愛社精神”というよりは、意地や自己証明のようなものだったのかもしれません。
──働く者の忠誠心は、最後には会社よりも仲間に対して向けられるようだ。彼らを取材したことで、清武さん自身はどんな感想を抱いたか。
なんて“志操”の高い人たちだろうと思いました。それが1人でなく、たくさんいたというのがまたすばらしい。今回、『しんがり』を原作にしたドラマが放送されるんですが、出演する役者さんたちも“志操”の高さを感じさせる人ばかりです。私は読売新聞を辞めてから、“華々しく報道されない後列の人を描くこと”をテーマに執筆活動を続けてきました。こういう人たちに“後列の人”を演じてもらえるのは、原作者として嬉しいかぎりですね。