両者の教科書の違いはどこにあるか。それは取り上げる人物に端的に表れています。育鵬社では聖徳太子や鑑真、西郷隆盛や伊藤博文、渋沢栄一などのわが国に功績のある歴史上の偉人がピックアップされています。東京書籍では一般国民にはほとんど知られていない古代のアテルイ(大和朝廷に抵抗した蝦夷軍の軍事指導者)や、近代の項では幸徳秋水(社会主義者・無政府主義者)です。東京書籍のコラムで取り上げる人物に、イデオロギー的な判断が入っているとしか思えません。公民の教科書でも(日本では慎重意見の根強い)外国人参政権にも大きくページを割くなど、左派的なトピックの目白押しです。

東京書籍(写真左)と育鵬社(写真右)の中学校歴史公民教科書。

戦争に関連して言えば、東京書籍の「歴史」は、日本の戦争を「侵略」と表現し、他国の戦争などは「侵攻」「進入」となっている。こうしたところにも非常に恣意的なものを感じます。

私は、一時期、東京書籍に所属していたことがあります。当時の教科書に「南京事件の被害者は20万人」という記述がありました。それはなぜかとの質問に対し役員は「1万人という説も、100万人という説もある。20万人ならバランスが取れる」という旨の返事でした。彼らが売るためだけに教科書をつくっていたとは考えたくないですが、良質な教育、よい教科書とは何かという議論がなく、当時の実質上の教科書採択者であった教職員におもねってつくられた側面は否定できないと思うのです。

今年の教科書採択は、自治体の首長より任命された教育委員によって決定されます。教科書シェア上位の教育出版、帝国書院、日本文教出版は、東京書籍とほぼ同様の記述があり、育鵬社との違いは明確です。共産党系以外の対立候補がいないことで、政治的態度を選挙で明らかにする必要がなかった首長が、本当はどんな政治思想を持っているのかがわかるチャンスなのかもしれません。

※編集部注:教科書の記述についての疑問を東京書籍社長に書面で尋ねたが、広報から「対応する」との返事があったものの期限までに回答はなかった。

(構成=青柳雄介 撮影=早川智哉)
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