さらにいえば、業績が好調な会社ほど、内部は硬直化しがちです。キャッシュフローを生み出す事業が明らかならば、その仕組みを回す努力を重ねるだけで、自動的に成果は積み上がっていきます。その仕事は、深く思考することを求められるわけではないので、残念ながらそこで得た経験は、ほかの会社ではあまり活用できない恐れが強い。
キャリアをうまく生かしている人は、自分が仕事をしているのであって、会社が仕事をしているのではない、と言います。ほかの会社でも通用するスキルを意図的に磨き、それを外に対してきちんとアピールする。最近では「オウンドメディア」という言い方もされますが、自分自身がメディアとして周囲の注目を集める。そのため意図的に業界へ仕掛けていく。そういう人は経営者などの意思決定者の目にとまり、ヘッドハンティングされています。
一方、大量採用を前提とした転職市場から移ってきた人は難しい。そういう人は、いまある仕組みを回すために採られているため、そのためのスキルしか身につきません。好調な時期には厚遇を得られても、会社が不調になれば、前出の相談者のように年収減を迫られます。
具体的には、グリーやDeNAといった企業に新卒や中途で入社した人たちは、意識的なキャリアづくりが必要でしょう。2社に共通するのはプラットフォームビジネスである点です。いわば携帯電話のiモードと同じ構造ですが、市場がスマートフォンに移行した現在、iモードで頑張っていた会社は軒並み対応が遅れ、事業の縮小を余儀なくされています。2社には優秀な人材が集まっていますが、それでも事業領域の枠外では、なかなか成功例をつくれずにいる。業界下位の会社は、より厳しい状況を強いられつつあります。
1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2000年イレギュラーズアンドパートナーズを設立。著書に『リーダーの値打ち』『情報革命バブルの崩壊』などがある。ブロガーとしても著名。