給食が課題解決の一助となるか

5月15日の梅島第二小学校の献立。苦手なグリーンピースごはんを食べさせるため、副菜は大人気の「カリカリポテトサラダ」が登場。

「健康」「貧困」「児童・生徒の学力」「治安」。これらは、「隠さず表に出して区民のみなさんと問題意識を共有したい」と近藤区長が話す、足立区が抱える課題だ。

「4つの課題はそれぞれ独立しているのではなく連鎖していて、それを断ち切るために手をつけていかなければいけない。それぞれに対策を講じています。私は金銭格差と同様に、健康格差もあると思います。担任から『家庭でお子さんに野菜をたくさん食べさせてください』と言われた母親が『大丈夫です。毎日、ポテトチップスを1袋食べさせていますから』と答えたという笑えない話も聞きました」

1日3回、特に給食で決まった時間にバランスのいい食事をする。それが精神の安定、生活リズムの改善や授業への集中力につながる。食育の授業を通じて、食べ物への興味がわき、知的好奇心が育まれる。自分の体にいいもの、悪いものがわかるようになれば、子どもが家族に発信し、成人病予防や平均寿命の問題にも一石を投じることができる――。

給食が直接の要因とは言い切れないが、昨年、区内の小学校の学力調査平均は、都平均に近づいた。生きる基盤といえる食の改革は、延々と続く「負のスパイラルを断ち切る」可能性を見せている。

子どもたちの「給食が美味しい」という声は、保護者や地域住民に自然に伝わる。それは区民だけにとどまらなかった。「おいしい給食」に注目した出版社がレシピ集『東京・足立区の給食室』を刊行すると、8刷、7万7000部というベストセラーになった。その後もメディアでたびたび取り上げられたこともあり、「足立区の給食は日本一美味しいと、区民の自慢になってきている」と近藤区長。

「必要なのは自然に生まれる新たな街のイメージではないかと思うのです。『足立といえばこれ』、という看板が、今はまだありません。これをつくる。役所だけでやるのではなくて、自分たちが街を変えたんだという区民の自信が、さらに区を変えていくと思うのです。給食によって、子どもたちの自己肯定感が高まれば、自分の住んでいる街を肯定していくことへとつながっていくと思うのです」

日本一おいしい給食――。味は、理屈や論理ではない。子どもたちの味覚に訴える「美味しい」という感動が、足立区の新たなイメージをつくる原体験になるのかもしれない。

(大森大祐=撮影)
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